■ワッケインという人物の本質
軍規に則って行動する……それは軍人として当然のことである。ワッケインは事あるごとに軍規を持ち出し、ホワイトベース隊の行動を抑制しようとした。
しかし、危機的状況に置かれた際、ワッケインは彼よりも階級が高いパオロ・カシアス艦長の言葉に従い、アムロたちがガンダムで出撃するのを容認したのである。
ワッケインが本当に頭の固い軍人であれば、いかに老提督の言葉があろうとも、自分のホームであるルナツーにおいては自身の判断を優先してもおかしくない状況だった。プライドの高い軍人だったらそうすることも予想できたが、彼はパオロ艦長の言葉に従ったのである。
しかも、自身の艦であるマゼランをホワイトベースの主砲で吹き飛ばすという大胆な策でルナツー艦隊の全滅を防いだ。この一撃で避けきれなかったザクIIを撃破しただけでなく、あわやシャアの母艦であるムサイまで撃墜しかねない攻撃となった。
結果、シャアの部隊を退けたが、その戦いの中でパオロ艦長は息を引き取る。ワッケインはこの戦いを経て、パオロ艦長から臨機応変な判断の重要性を学んだことだろう。
地球へと向かうホワイトベースを見送るワッケインが部下につぶやいた「我々は学ぶべき人を次々と失ってゆく……寒い時代だと思わんか」というセリフからは、軍における上官であり人生の先輩でもあるパオロ艦長への尊敬の念が感じられた。
■大きく変わったワッケインの印象
次にワッケインが登場したのは第35話のこと。ジオン軍の宇宙要塞「ソロモン」の攻略戦を前にして、ホワイトベースの艦長ブライトは、ソロモン攻撃艦隊司令となったワッケインの艦にあいさつに出向く。
ホワイトベースの正式な艦長となったブライトに対し、ワッケインは「貴様もいっぱしの指揮官面になってきたかな? 結構なことだ」と素直に成長を認めた。その態度は、ルナツーで初めて会ったときとはまるで別物だった。
そしてアムロについてもその後の活躍を追っていたのか、ワッケインは「素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う」と述べ、少年パイロットが秘めた才能と成長を喜んでいるようにも見えた。
ワッケイン率いる艦隊はソロモン攻略戦において先鋒を務め、対要塞兵器であるソーラ・システムの準備が整うまでの陽動の役割を見事に果たし、この戦闘を勝利に導いている。
基地司令だけでなく、艦隊司令としても非凡なところを見せたワッケイン。ソロモンの陥落後は、残存戦力を掃討するためにテキサスコロニー周辺の宙域に侵入。残存する艦を撃滅しながら、ワッケインのマゼランはホワイトベースとの合流を果たした。
ガンダム収容のためにテキサスコロニーに入ったホワイトベースを見届けたワッケインは、マゼランで周辺宙域を警戒。そのときジオンのザンジバル級戦艦が出港するのを発見する。
そのザンジバルはシャアが指揮する艦だった。マゼランとザンジバルの壮絶な一騎打ちが繰り広げられるが、ザンジバルの強固な正面装甲はマゼランが誇る大口径メガ粒子砲すら弾いた。
そしてホワイトベースが援護に駆けつけるが時すでに遅く、敗れたマゼランの残骸が虚しく漂うのみ……。ワッケインの死にブライトは涙を流し、ホワイトベースのクルーたちも大きなショックを受けるのである。
若いクルーが多いホワイトベースを気にかけ、成長を喜び、自ら最前線で指揮をとっていたワッケイン。ルナツーでの初対面のときとは、別人のように頼もしく信頼できる人物に見えた。その退場劇は視聴者にとっても衝撃であり、最後まで生き抜いてほしい連邦軍人のひとりだった。