■複数の作品に登場した幻のニュータイプ
最後に紹介したいのは「クスコ・アル」という女性だ。トミノメモの中では、デギン・ザビの秘書として登場し、連邦との和平交渉に臨むデギンに付き添っていた。
なおトミノメモに登場するクスコ・アルには「ブライトが、真の意味で惚れた女性」という説明があった。和平に反対するギレンが差し向けた部隊によってデギンは乗り込んだ艦ごと散ったが、ブライトはクスコを救出する。
そしてホワイトベースに匿われたクスコ。アムロは「あの人は、スパイだと思う」とブライトに警告し、実際クスコはジオンの生命線でもある木星船団を狙う連邦の計画を知ったとき、ホワイトベースを脱してジオンに知らせようと動く。そのことを知ったブライトは彼女を射殺するのだ。
トミノメモに登場するクスコ・アルは文官であり、ニュータイプという説明はなく、ブライトの悲恋に関わるだけの人物のようだ。しかし、クスコ・アルは富野氏が執筆した小説にも登場。そちらではニュータイプのパイロットとしてモビルアーマー「エルメス2号機」に乗り、アムロと戦っている。
トミノメモが掲載された『機動戦士ガンダム 記録全集5』と『小説版ガンダム』の刊行時期は比較的近かったこともあり、クスコ・アルも幻のニュータイプの一人として紹介させていただいた。
今回は富野由悠季氏が書き残した通称「トミノメモ」に登場する「幻のニュータイプ」たちを紹介した。トミノメモはあくまであらすじを示したものではあるが、『ガンダム』の初期構想では、物語の終盤はニュータイプ同士の戦いを中心に考えられていたようだ。
アニメ未登場の幻のニュータイプたちは、どのような人物を想定していたのだろうか。トミノメモをベースにした完全版の映像作品も見てみたいものである。