皮肉な悲劇…“幸運な男”から“世界一の美女”まで『ブラック・ジャック』手術は成功したものの…不幸すぎた患者たちの画像
手塚治虫漫画全集『ブラック・ジャック』第5巻(講談社)

 二重施術やしわ取り、メスを使わないいわゆる「プチ整形」など、いまや整形手術には多くの種類がある。周りに知られないような気軽な施術も増えており、これを受けることで前向きな人生を送れるようになるのであれば素敵なことかもしれない。

 しかし、手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』に登場する整形手術は、顔が全くの別人になるといった大胆なものが多い。極端な手術ゆえか、ブラック・ジャックの治療を受けた人物は不幸になってしまうケースも少なくないのだ。今回は整形を巡る、ちょっと皮肉にも思えるストーリーを紹介したい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■顔を変えて富豪の息子になりすますが…「幸運な男」

 「幸運な男」は、ある外国人が日本人になりすますための整形手術をし、意外な結末を迎える物語だ。

 ある日、イランの石油プラントで爆発事故が起こり、多数の日本人技師が犠牲となった。その中には、石油会社の社長の息子・天堂一郎も含まれていた。それを知った現地従業員の青年は天堂家の莫大な資産を手に入れるため、ブラック・ジャックに彼の顔そっくりに整形してもらい、日本に渡る。

 しかし、彼を待ち受けていたのは、社長息子としての悠々自適の生活ではなかった。会社はすでに倒産しており、彼を出迎えたのは古アパートに住む母親ただ1人だったのだ。

 整形して大金持ちになるはずだったのに、日本に来ても結局苦労する日々を送ることになってしまうとは……。高いお金を払って手術を受けたのに、手に入れたのが働きづめの貧しい暮らしであったことは、大きな皮肉と言えるだろう。

 だが、物語はここで終わらない。偽の一郎はその後、自分を本当の息子のように愛してくれる母親と深い絆で結ばれ、物語は意外な方向へ向かっていく。彼は金銭的な幸せは逃してしまったが、別の形の「幸せ」を見つけることになるのだ。

 偽の一郎がどのような結末を迎えたかは、ぜひ本作を読んで確かめてほしい。

■妻子を捨てた男の悲劇「えらばれたマスク」

 「えらばれたマスク」には、ブラック・ジャックの父親が登場する。この父親がなかなかの悪人であるため、エピソードの結末を知った時は胸がすく思いがした。

 ある日、絶縁したはずの父親からブラック・ジャックに電話がかかってくる。彼にとっての父親はかつて幼い自分と母親を捨て、別の女性と逃げた憎むべき相手だ。その要件は、再婚相手の女性が病気により顔が変形してしまったため「世界一の美女」に整形手術を施してほしいという依頼であった。

 手術前に「いまでもおかあさんをすこしは愛していますか」と聞く、ブラック・ジャック。それに対し、はっきりとNOと答える父親。それを聞いたブラック・ジャックは、再婚相手の顔を自分の亡き母親そっくりに手術してしまうのだ。

 絶望する父親を前にブラック・ジャックは、「私はおかあさんこそ世界一美しい人だったと信じていますのでね」と言い放つ。前妻と幼い息子を捨てて身勝手に再婚していた父親のことを考えると、このくらいの報いは受けて当然なのかもしれない。

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