■手術を受けた直後の悲劇…「オオカミ少女」
「オオカミ少女」は、自分を助けた少女に対し、ブラック・ジャックがお礼として手術をした話だ。
内戦が続くある国の検問所で騒動を起こしたブラック・ジャックは、追っ手から逃げ、山奥で力尽きて倒れてしまう。彼を助けたのは、生まれつき顎と口が2つに分かれた「狼咽(ろういん)」の少女だった。
ブラック・ジャックは自分を助けてくれたお礼に、少女の顔に形成手術をする。それまで「オオカミ少女」と周囲から罵られてきた少女は、コンプレックスが解消された自分の顔を誰かに見せたくて仕方がない。その結果、ブラック・ジャックの忠告も聞かずに山から町へ降りてしまい、軍関係者によって亡命者と判断され、銃で撃たれてしまうのだ。
長年の苦しみから解放されたはずの少女を襲ったあまりにも残酷な運命……。この悲しい結末がとても残念でならない。
■憧れの人気女優になれたのに…「スター誕生」
最後は、人気女優として美しい顔に整形した女性のエピソード「スター誕生」を紹介したい。
ある時、杉並井草という人気の美人女優がブラック・ジャックの元を訪れる。彼女の美しい顔はブラック・ジャックによって作られたものであり、井草はそれ以来、ずっとブラック・ジャックへ密かな恋心を抱き続けていた。
5年ぶりにブラック・ジャックの元を訪れた井草だったが、そこで彼女が目にしたのは、整形前の自分の昔の顔写真であった。「その娘はもう死んだ」「魅力的な子だった」と言うブラック・ジャック。井草は現在の美しい顔よりも、昔の顔のほうが好きだった彼の気持ちを知り、ガックリとうなだれるのであった。
世の中に美しいとされる顔はあるが、個人によって美しいと思う基準は異なる。一般的な美しさに合わせて整形をしても、必ずしも皆が自分を受け入れてくれるとは限らない。美しさとはいったい何か……思わず考えさせられるエピソードである。
このように『ブラック・ジャック』で描かれる整形手術には、現代の医療技術でさえ実現が難しそうなものも登場する。だが、そのような高い技術の弊害からか、手術をして一度は幸せになるものの、その後は不幸になってしまうのが印象的だ。
近い将来、現実社会でもこのような大変身を遂げられる手術も登場するだろう。そのときはこれらのエピソードを教訓にし、外見を変えることの本当の意味について、深く考える必要があるだろう。