■記憶を消され、すべてがなかったことにされる恐怖
1966年から放送された『魔法使いサリー』は、昭和の「魔女っ子ブーム」、のちの「魔法少女ブーム」の祖ともいわれている。
当時の女の子たちの憧れだった魔女っ子作品において、筆者が恐ろしさを感じたのが第108話「ポロンの子守歌」というエピソードだ。
ポロンは魔法の国のお姫さまであるサリーの妹的な存在で、第76話から登場したお団子頭のかわいい魔法使いの女の子。だが実はポロンはサリーのパパ(王様)が雪の日に人間界で拾い、魔法の国の住人として育てられた“普通の人間”だった。
そして本当の両親のもとに帰すべきだと考えたサリーは、人間の家でポロンが魔法を使うたびに無効化し、自分たちや魔法の国の記憶をすべて消してしまうのである。
それまで使えた魔法を使えなくされ、魔法の国で起こった出来事や魔法の記憶をすべて「夢」にされてしまったポロン。そのときの彼女の戸惑いを自分に置き換えて考えると、恐怖でしかない。
なんとかポロンを取り戻そうとカブや三つ子たちが奮闘するも失敗。最終的にポロンは、そんなカブたちのことさえ忘れ、普通の人間に戻ってしまう。この回を観て、寂しさと喪失感を覚えた日が忘れられない。
■皆を困らせた悪魔を容赦なく槍で一突き!
フィンランドの女性作家トーベ・ヤンソンが生み出した『ムーミン』は、日本でもアニメで人気になったキャラクターだ。ムーミン谷に住む架空の生物「ムーミントロール」たちの、不思議でゆったりとした日常を描いた物語。
平成には『楽しいムーミン一家』(1990年放送開始)が放送されたが、昭和の子どもたちにとっては、岸田今日子さん(ムーミン役)の声が印象的だった『ムーミン』(1969年放送開始)シリーズは忘れられない作品である。
ちびのミイことリトルミイは、原作では小さくて生意気だが、憎めない女の子。ところが昭和のアニメ版での彼女は、とにかく口が悪く意地悪で、そのうえ驚くほど行動力があった。
そんなミイの印象的なエピソードが、アニメ第2話の「悪魔のハートを狙え」の回である。
ひどいイタズラをくり返す悪魔に、ムーミン谷の住民は困っていた。怒ったムーミンとミイは悪魔のあとを追うと、彼の住処である丸太小屋に穴を開けて忍び込む。
寝ている悪魔を見たミイは「心臓めがけて槍をグサッ」と言いながら槍を構える。ムーミンは「ちょっとかわいそうみたい」とためらうが、ミイはお構いなしに槍を投げつけて、悪魔の胸を串刺しにするのだ。
ミイの容赦ない行動にゾッとさせられたシーンだが、さらに死んだかどうかを確認してから帰っていく姿もなかなか恐ろしい。
実は取り外しの利く悪魔の心臓は冷蔵庫にしまってあったため死んでいなかったが、最終的にその悪魔の心臓をミイとムーミンに奪われてしまい、奴隷のようにこき使われてしまうのだ。
髪を引っ張られ、ミイとムーミンを乗せた耕運機で畑を耕す悪魔の姿はなかなかに哀れだった。
昭和のメルヘンチックなアニメは、ほのぼのした世界観と愛らしいキャラクターたちが魅力。夢と希望にあふれた不思議なストーリーに魅了されたファンは多いと思われるが、なかには当時の子どものトラウマになるような、恐ろしい描写が含まれていることも珍しくなかった。
皆さんにとって、思い出深い昭和のメルヘンアニメといえば、どのような作品を思い出すだろうか。