■かつての姿が息子を奮い立たせた元・炎柱「煉獄槇寿郎」

 炎柱・煉獄杏寿郎の父にして、かつて同じく炎柱の座にあった剣士・煉獄槇寿郎。

 しかし、己の才能の限界、そして最愛の妻を失った深い喪失感が、彼から戦う意志を奪ってしまう。柱を退いた後は酒に溺れる日々を送り、息子・杏寿郎が独学で炎柱へと昇り詰めたときでさえ、その顔に笑みはなかったという。

 けれども、かつての槇寿郎は多くの命を救った誇り高き炎柱だった。その功績の一端が、TVアニメ『無限列車編』第1話、アニメオリジナルストーリーで明かされている。

 杏寿郎がある任務で老女・トミと孫・ふくを救ったとき、トミは槇寿郎と生き写しのような杏寿郎を当時の恩人と見間違え、「私とふくの母親は 20年前 あなたに助けていただきました」と涙ながらに感謝を告げた。

 その言葉が父に向けられたものだと悟った杏寿郎は「それはきっと俺の父でしょう」と答え、「俺は父を継いで鬼を狩っているのです 父と同じように あなたをお守りできたこと 光栄です」と誇らしげに告げる。その姿が実に印象深い。

 今は心を閉ざしてしまった父であっても、彼がかつて救った命が、今もなお感謝し続けている。その事実は、無限列車へと向かう杏寿郎の胸に、確かな誇りと燃えるような闘志を宿したに違いない。

 

 鱗滝左近次と桑島慈悟郎は育手として新たな剣士を鍛え、煉獄槇寿郎はかつて救った命が息子の闘志を奮い立たせた。戦場を離れても、後進を導き続ける元柱たち。今回触れられなかったが、元・音柱の宇髄天元もその一人である。

 彼らの背中は、ただ剣の腕前を誇示するものではない。鬼を討つ覚悟、人を信じ抜く心、守るべき者への揺るぎなき想い。そのすべてが次代の剣士たちへと確かに受け継がれていく。

 元・柱たちの生きざまは、戦いの場を去った後もなお、鬼殺隊という組織の礎として輝き続けているのである。

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