■タダで手術どころか20億円も払ったうえでの手術「助けあい」
「助けあい」は、タダどころか、逆に20億円以上の大金を支払ってまで手術をした、レアエピソードだ。
かつて海外で、身に覚えのない殺人事件の犯人として拘束されたブラック・ジャック。絶体絶命の彼を救ったのは、偶然居合わせた蟻谷という日本人男性のアリバイ証言であった。蟻谷に感謝したブラック・ジャックは、いつか恩返しをすると固く約束した。
時が経ち、蟻谷は会社の不正が露見するのを恐れた上司によって、自殺に見せかけた事故に遭ってしまう。蟻谷の命が危ないことを知ったブラック・ジャックは、彼を救うべくすぐさま行動を開始する。
ブラック・ジャックは蟻谷の命を助けるため、レンタカーを借り、モーターボートを買い、あげくのはてに手術を拒む病院を20億円で賠償して手術に挑む。
その後、どうしてそこまでしてくれるのかと聞く蟻谷に対し「おたがいさまでさァ あなたに助けられた時は もっとうれしかった…」と、告げるブラック・ジャック。
大金を払ってでも恩返しのために駆け回った彼は、まさに義理堅い男といえるだろう。
■少年のため、動物の手術を善意で行った「モルモット」
「モルモット」は、ブラック・ジャックが1人の少年を救うため、タダでモルモットの手術をするエピソードだ。
入院中の少年・羽仁夫は、実験動物として飼育されているモルモットをかわいがっていた。しかし、そのモルモットが自分の病気の治療法を探るため解剖されると知ると「戦え!!」と強烈な念力を送る。するとモルモットは凶暴化し、自分を殺そうとする医療関係者たちに次々と襲いかかるのだ。
ブラック・ジャックはそのモルモットを捕まえ、ほかのモルモットから腎臓移植をして救出する。結果、モルモットの命は助かり、羽仁夫も元気を取り戻していくのだった。
“どうしてこんなことをしてくれるのか”という看護師の問いに対し、ブラック・ジャックはのちに「そんなことてれくさくっていえるかいっ おれのこどものときの顔に似てたからだなんて…」と、つぶやいている。
普段は冷徹な印象のブラック・ジャックだが、子どもへの手術代に関してはサービスすることが多い。特に親近感を感じた子どもには、特別な計らいをするのだ。彼の温かい一面が描かれた、なんとも印象深いエピソードである。
普段は「金の亡者」とも言われ批判されることの多いブラック・ジャックだが、自分に親切にしてくれた人や、特に生きて欲しいと願う人からは手術料を受け取らないことも多い。
エピソードをあらためて読み返すと、強欲な金持ちからはしっかり手術代を受け取りつつ、それができない人からはタダ、もしくは格安で手術を請け負うことも少なくないのだ。
ブラック・ジャックが天才外科医といわれるのは、その並外れた技術だけではない。こうした人間性こそが、彼を唯一無二の存在にしていると言えるだろう。