■涙なしでは見られない…『君に届け』の「やっと届いた」

 椎名軽穂さんの大ヒット作『君に届け』は、長い黒髪と青白い肌という見た目から、ホラー映画『リング』に登場する「貞子」のようだと周囲に怖がられている主人公・黒沼爽子と、クラスの人気者・風早翔太の、甘酸っぱい初恋を描いた物語だ。

 お互いが想い合っているのは明らかなのに、なかなか想いが伝わらず、もどかしい状態が続く2人。それだけに、風早の想いがようやく爽子に届いた瞬間は、伝説の名シーンとして有名だ。

 風早の好意を、自己肯定感の低さから素直に受け取れずにいた爽子。しかし、友人たちの助言もあり、爽子はついに風早に想いを伝えることができたのである。

 学園祭で、あらためて想いを確かめ合った2人。「全部なんだよ……風早くん 全部ほしいんだよ」と涙を流して伝える爽子に、風早は「おなじだよ」と応える。そして爽子の手を握りしめ、「夢みたいだ……やっと届いた」と呟くシーンは、2人の恋路を見守ってきた多くのファンの心を強く揺さぶった。

 2010年に公開された実写映画でも、この名シーンは登場する。

 初詣に誘われた爽子だが、自身の父親が出演するコンサートがあり、駆けつけることができなかった。だが、父親に正直な気持ちを打ち明け、風早のもとへと走る。

 そして、ついに風早を見つけた爽子は、意を決して告白するのだ。

 雪が降るなか、爽子役の多部未華子さんが「私 風早くんのことが……好きです」と精一杯伝えると、風早役の三浦春馬さんが「俺も……ずっとずっと黒沼が好きだよ」と応え、「夢みたいだ……やっと届いた」と優しく微笑む。

 この初詣のシーンは原作にも登場するが、映画では物語全体のクライマックスの感動的なシーンとして感動的に演出されていた。空から降る雪が、2人が出会ったときの春の桜吹雪のようでロマンチックだったのも非常に印象深い。

 原作同様、なかなか伝わらない風早の想いが、ようやく爽子に届いたこのシーン。嬉しさから思わず笑みが溢れる三浦さんの演技にときめいてしまったファンは多いのではないだろうか。

 

 原作漫画で描かれていた伝説の名シーンは、実写化されるにあたり、一味違った演出で登場していた。紙面で読む漫画と違い、実写化作品ではキャストの表情や息遣いといった、生身の表現が加わる。紹介した作品からは、いずれも俳優たちが原作の名シーンを大切に演じているのが伝わってくるシーンばかりであった。

 ぜひ、この機会に原作漫画と実写化作品を見比べながら、それぞれの伝説の名シーンの違いを楽しんでみてはいかがだろうか。

  1. 1
  2. 2
  3. 3