
少女漫画には時として、ファンの心に強烈に残る「伝説級」の名シーンが存在する。これらの伝説的な名シーンは、作品を象徴するほどのインパクトを放ち、時にはパロディとして取り上げられることさえある。「作品は知らないけど、そのシーンだけは知っている」という人もいるほど、広く知れ渡っているのだ。
ところで、そうした少女漫画の名シーンは実写化ではどのように再現されているのだろうか。今回は、誰もが知る少女漫画伝説の名シーンに注目して、実写化作品を振り返ってみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■あざと女子の金字塔!『NANAーナナー』の「わざとだよ?」
矢沢あいさんの不朽の名作『NANAーナナー』。2人の「NANA」を主人公に、彼女たちの人生をリアルに描いたストーリーは多くのファンの共感を集め、今なお愛され続ける作品である。
そんな『NANAーナナー』において伝説の名シーンと言えば、主人公の一人・小松奈々の恋人であった遠藤章司と、彼が惹かれていく相手・川村幸子との一幕だ。
アルバイト先で意気投合した2人は、シフトが被ることも多く、仕事終わりに終電に乗るために走るのがお決まりになっていた。
ある日、幸子は終電に走って向かう途中、履いていたミュールが脱げてしまう。先を急ぐ章司に「先行って!」と声をかけミュールを取りに戻るが、振り返ると章司は終電に乗らず幸子を待っていた。
章司が呆れ顔で「走らないと終電逃すの分かってて なんでそーゆー靴履くかな」と言うと、章司の目を見上げて「わざとだよ?」と小首をかしげる幸子。この仕草にキュンとこない男性はいないのではないだろうか。
好意を包み隠さず、巧みにアピールをする幸子の強烈な一撃。このシーンをきっかけに章司は幸子からの好意を確信し、2人の仲は急速に深まっていくのである。
作中屈指の名シーンとなった、この幸子の「わざとだよ?」は、2005年に公開された実写化映画でも再現されている。
実写映画においても、幸子が原因で終電を逃してしまう大まかな流れは同じだった。章司役の平岡祐太さんから問いかけられた幸子役の紗栄子さん(出演時はサエコ名義)は、決心したように一度うつむき、そしてはっきりとした口調で「わざとだよ」と告げる。
そこには原作のように小首をかしげるあざとい仕草は一切なく、ただ純粋に自分の気持ちを伝える幸子の姿があった。紗栄子さんの演技を見ると、“あざとい”なんて言葉では片付けられない、恋愛に対する真摯な覚悟を感じられ、実写版ならではの名シーンとなっていた。
■キャストがこだわり抜いた一幕『ママレード・ボーイ』保健室のキスシーン
吉住渉さんの大ヒット作『ママレード・ボーイ』は、両親の突然の離婚と交換結婚から物語が始まる。この奇妙な縁により、主人公・小石川光希は、それぞれの両親の再婚相手の息子である松浦遊と同居することになった。
クールな美少年・遊に振り回されながらも惹かれていく光希。イケメンの同級生と1つ屋根の下で暮らすという、少女漫画らしい女の子の夢が詰まった作品だ。
本作を代表する名シーンといえば、なんと言っても「保健室のキスシーン」だろう。バスケットボールが顔に当たり保健室に運ばれた光希のもとに遊が現れ、眠っている彼女に突然キスをするという印象的なシーンだ。
この不意のキスに光希はパニックになるが、これは2人にとってのファーストキスであり、光希が遊を意識し始めるきっかけともなる重要なシーンでもあった。
2018年に公開された実写映画『ママレード・ボーイ』でも、この伝説の名シーンは再現されていた。映画では、遊とライバルの須王銀太がペアを組んでテニスの試合をするシーンに変更されており、試合後に相手選手が振ったラケットが飛んできて光希に直撃する流れとなっていた。
保健室で眠る光希のもとを訪れる遊。彼は優しい眼差しで光希を見つめると、微笑みながらそっとキスをする。その瞬間、光希は思わず目を開けてしまうが、遊はそれに気づかない。そして、何もなかったかのように離れるとにっこりと微笑むのであった。
原作において、キスをしたあとの遊は口に手を当てて考え込むような素振りを見せ、すぐにその場を立ち去っている。その姿は、自身の衝動的な行動に戸惑っているようにも見えた。対して映画版では、光希への愛しい想いが思わず溢れ出たかのような、温かく優しいシーンとして描かれている。
遊役の吉沢亮さんは、この伝説的なシーンについて「いままでのキスシーンで一番緊張しました」と語っている。目をつぶるタイミングや角度まで考え、演じていたという吉沢さん。そのこだわりもあり、幻想的な光に包まれた保健室のキスシーンは映画でも印象的な名シーンとなっていた。