
『ガンダム』シリーズのテレビアニメ最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』は、初代『機動戦士ガンダム』の仮想戦記として描かれた。その放送終了後のイベントで行われた鶴巻和哉監督&榎戸洋司氏のトークショーのなかで、ふたりは初期構想を明かしている。
主人公「マチュ」の成長を描くための要素として、榎戸氏はカイとミハルのカップルと出会わせたかったと語り、鶴巻監督からは結婚したマチルダとウッディと出会うという案があがったという。
結局、本編ではララァとマチュの出会いが描かれることになったが、いずれも初代『ガンダム』では悲しい結末を迎えたカップルだ。ファンにとっては、幸せな未来を見てみたかった人たちの代表格ではないだろうか。
そこで、あらためて初代『機動戦士ガンダム』の中で悲恋が描かれた3組のカップルについて振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■カイの悲恋が描かれた伝説のエピソード
カイ・シデンは民間人でありながら、なし崩し的にホワイトベースに乗り込むことになり、ガンキャノンのメインパイロットとして一年戦争を戦い抜いた人物だ。
序盤はあまのじゃくで皮肉屋だった彼の運命を大きく変えたのは、ベルファストで出会った少女ミハル・ラトキエではないだろうか。
ミハルは戦争で親を失った戦災孤児で、幼い弟妹を食べさせるためにジオン軍のスパイをしていた。ホワイトベースに潜入したミハルは、カイに匿われながらジオンに情報を流す。
そのことをカイも察していたが、生きるために稼がなければならないミハルを糾弾できずにいた。
そしてミハルの流した情報をもとに、ジオン軍によるホワイトベースへの攻撃が開始される。だが、ホワイトベースにも弟妹と同年代の子どもたちが乗艦していることを知り、ミハルは動揺。カイにすべてを明かし、罪滅ぼしのために協力することを申し出る。
輸送機「ガンペリー」で出撃したカイとミハルは、上空からのミサイル攻撃でジオンのモビルスーツに打撃を与える。しかし、電子装置の不具合で発射できなくなると、ミハルはハッチに出て手動でミサイルを発射することに。
だがミサイル発射時に体を固定していなかったミハルの体は、噴射圧にあおられて大西洋へと落下したのである。帰還後、ミハルの死を知ったカイはその場に泣き崩れる。
彼女との出会いと別れは、カイを人間的に一回り大きく成長させた。「ミハル……俺はもう悲しまないぜ。おまえみたいな子を増やさせないために、ジオンを叩く。徹底的にな!」とつぶやく場面がある。
もしもミハルが生きていたら、カイはどのような道を歩むことになったのか気になるところだ。
■結婚間近のふたりを襲った「取り返しのつかない悲劇」
マチルダ・アジャンは地球連邦軍の補給部隊の指揮官であり、連邦軍の本拠地「ジャブロー」で技術士官を務めるウッディ・マルデンとは結婚間近の間柄だった。
マチルダは、アムロについて「あなたはエスパーかもしれない」と早くから才能を見抜いていた人物で、アムロの初恋の相手でもある。
彼女はジオン軍のエース部隊「黒い三連星」が襲撃してきた際、ホワイトベースを守るために輸送機のミデアで出撃。その生命を散らした。
その後、ホワイトベースがジャブローに到着すると、アムロらはマチルダの婚約者であるウッディに遭遇。自分の力不足でマチルダを死なせてしまったことを謝罪するアムロに対し、ウッディは「うぬぼれるんじゃない」と叱咤。ガンダム1機の働きでマチルダを助けられたり、戦争に勝てたりするほど甘くないことを指摘する。
さらにウッディは「パイロットはそのときの戦いに全力を尽くして、後悔する戦い方をしなければそれでいい」と告げる。その言葉はアムロを救い、その後の超人的な戦いを支える精神を育んだともいえるだろう。
しかしジオン軍がジャブローに侵入してくると、ウッディはガンダムを援護するために戦闘用ホバークラフト「ファンファン」で出撃。くしくも婚約者マチルダと同じくコクピットをモビルスーツにつぶされて壮絶な戦死を遂げた。
ウッディの死の瞬間、アムロの脳裏にはウッディとマチルダが結婚式で祝福されているイメージが流れ込む。二人の幸せそうな門出を劇中で見たかった視聴者は多いことだろう。