
手塚治虫さんによる『ブラック・ジャック』の主人公ブラック・ジャックは、「孤高の医師」として知られている。実際、海に向かった斜面にポツンと建つ家に住み、あまり世間とかかわろうとしない……。しかしその一方、意外とお茶目だったり、義理堅い一面からか小学校の同窓会(!)などにちゃんと出席したりもする。
そんなブラック・ジャックは、女性にもとにかくモテる。ミステリアスかつニヒルでありながら実は心優しい、そんな“ツンデレ”的な魅力が多くの人をトリコにしてきたのだ。
※本記事には作品の内容を含みます
※記事内に出てくる巻数は秋田文庫版のものを指します
■永遠の恋人・如月恵の存在
『ブラック・ジャック』の恋愛エピソードといえば、やはり欠かせないのが「めぐり会い」(第1巻収録)で描かれた「如月恵(めぐみ)」の存在だろう。
恵は大学時代のブラック・ジャックの後輩で、同じ医局で勉強していた。ブラック・ジャックはこの頃から周りを寄せ付けないタイプで、恵に対しても冷たい態度をとっていた。
しかしその裏で、帰りに雨が降るとこっそり傘を届けておいたり、夜道を歩く彼女を守るように少し離れてついていったりと、優しさをしめす。不器用すぎるアプローチだが、恵はそんなブラック・ジャックに惹かれ、心を寄せていく。
ブラック・ジャックは相変わらずつっけんどんな態度だったものの、それでも恵の気持ちは高まるばかりだったという。だがなかなかチャンスがなく、想いを伝えられない……。おまけにそんな中、恵は子宮ガンにおかされてしまう。
それを知ったブラック・ジャックは、医局員という立場でありながら、診察と治療、手術を自分ひとりだけでやると強引に押し通す。そして、手術の直前、「めぐみさん きみが好きだ 心から愛している!」とそれまで言えなかった想いを打ち明けるのだ。その後、恵のお願いに応じてはじめてのキスを交わすシーンは、切なくも美しい。
その後手術は成功したが、最終的にブラック・ジャックと恵は別々の人生を歩むことになった。しかし、ブラック・ジャックの心には恵の存在が永遠に焼き付いており、ピノコに対しても「恋人だった」と断言している……。
■お相手はやはり女医が多い?
もうひとり、ブラック・ジャックの恋愛絡みで存在感を放っているキャラといえば、「女ブラック・ジャック」=「ブラック・クイーン」と呼ばれる桑田このみだ。登場したエピソードは、「ブラック・クイーン」(1巻収録)と「終電車」(5巻収録)である。
このみはどんな手術でも冷静にやってのける優秀な医者で、周りからは高く評価されつつ恐れられていた。そんな姿にブラック・ジャックも惹かれるものがあったのだろう。珍しくクリスマスプレゼントを手に訪問するなど、自分から素直なアプローチをしている。
ただ、このみには恋人がいて、おまけにブラック・ジャックがやってきたその瞬間は、その恋人が重傷を負ってしまい手術をすることになって思い悩んでいるところだった。なんとも間の悪いことだが、それを知ったブラック・ジャックは、代わりに手術を成功させそれを「プレゼント」の代わりとする……。その後、「ジャックからクイーンへ」と書かれた手紙を破り捨てる姿が哀愁を誘った。
時を経て再会した頃には、このみは恋人と結婚していたが、それぞれの仕事の都合で離れ離れの生活を送っていた。さらに離婚も視野に入れ始めており、「――あたしのお気持ちをおわかりになりませんの?」とブラック・ジャックに自身の想いをほのめかす。
しかし、対するブラック・ジャックは「あなたが心に焼きついたことがありましたがね」「それももうすぎた話です」と素っ気ない態度。そのため2人がどうこうなることはなかったが、恵との甘く切ない関係とはまた違う、どこかほろ苦く大人な関係性が印象に残った。
ほかにも、「B・J入院す」(3巻収録)で入院先の女医に一途な想いを寄せられたり、「土砂降り」(6巻収録)で離島の医師として働く清水きよみに“あなたについて島を出たい”と言われたり、「てるてる坊主」(9巻収録)で未亡人の女医にほのかな好意を匂わせられたり……。やはりというべきか、ブラック・ジャックのお相手は女医が多い印象がある。