■患者の心を掴んでしまうケースも…

 またブラック・ジャックは、患者の女性の心を奪ってしまう場合も多い。それも、淡い好意を寄せる程度ではなく、本気の愛をぶつけてくる者が何人かいるのだ。

 たとえば、「盗難」(10巻収録)では、ギッデオン伯爵の妻 ジェーンのブラック・ジャックに対する熱烈な愛が描かれる。彼女は2年前、日本でのハネムーン中に両手足を切断せざるをえないほどの大怪我を負い、ブラック・ジャックに手術をしてもらった上、特製の義手と義足も作ってもらった。

 さらに、ブラック・ジャックは彼女のリハビリも担当するが、その厳しくも親身な姿勢にジェーンは徐々に惹かれてしまう。その入れ込みようは、リハビリ風景を見ていた彼女の夫が思わず危機感を抱き、急いで国に連れ帰るほどだった。

 その後もジェーンはブラック・ジャックへの想いを忘れられず、ブラック・ジャックの写真や彼への熱烈な愛の言葉をつづった手紙を義手と義足のケースに隠していたようだ。先にも書いたが、夫がいる女性をも夢中にさせてしまうあたり、ブラック・ジャックはなかなかに罪な男だ……。

 さらに、なんとブラック・ジャックが患者と“結婚”したエピソードもある。ただし「かりそめの愛を」(14巻収録)というタイトル通り、あくまでも偽物の結婚だ。

 ガンのせいで余命わずかだと聞かされ、死ぬ前に結婚したいと望んだ少女・青鳥ミチル。彼女は「この部屋へこれからいちばん最初にはいってくる男の人と結婚するわ」と宣言した通り、手術のためやってきたブラック・ジャックと結婚しようとする。

 ブラック・ジャックも芝居ならばと聞き入れ、病室で式を挙げることに。偽物とはいえ、ミチルはウエディングドレスを、ブラック・ジャックはタキシードを着てめかしこんでおり、牧師の前で誓いを立てるという気合いの入りようだった。

 担当したのがブラック・ジャックとあって、手術は結局成功しミチルは生き延びる。しかし、彼女は本気でブラック・ジャックを愛してしまっていた。「生まれて死ぬほどの恋」をしていると真剣なまなざしで打ち明け、結婚を理由にブラック・ジャックに迫るほどに……。

 もちろんブラック・ジャックはミチルを拒み、彼女は最終的に別の相手と“真の結婚”をした。ちなみにミチルを説得する際、ブラック・ジャックは「私は愛されるような人間じゃないよ」と吐き捨てている。誰かと一線を越えた関係になることは滅多にないブラック・ジャックの臆病な一面が垣間見えるようなセリフである。

 

 かかわる女性から何かと好意を寄せられがちなブラック・ジャック。そんな“モテ男”であるにもかかわらず、本人は不器用でけっこう恋愛下手なところも妙に可愛らしい。

 助手で自称“おくたん(奥さん)”のピノコはブラック・ジャックの前に女性が現れるたび警戒しているが、これだけモテているとそれも無理のない話なのかもしれない……。

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