■“破壊”か“再生”か…『BLEACH』ユーハバッハVS藍染惣右介
続いては、テレビアニメ『BLEACH 千年血戦篇』の最終クールとなる『禍進譚』が2026年に放送されることが決定した久保帯人氏の『BLEACH』。“霊王の息子”にして滅却師(クインシー)の王・ユーハバッハと、“最強の裏切り者”藍染惣右介の対峙という、ラスボス同士のバトルが読者の心を震わせた。
ユーハバッハは「全知全能(ジ・オールマイティ)」という未来を視る力を有し、すべての可能性を制御する神のような存在。一方の藍染は、五感全てを支配する完全催眠の力「鏡花水月」を操り、相手に錯覚を見せて行動を誤らせる知略型の最強格である。
興味深いのは、彼らの「目的」が共通していた点だ。藍染は霊王という“世界の楔”の存在に嫌悪し、「魂の均衡」という虚構のシステムを破壊しようとしていた。ユーハバッハもまた、霊王を殺害し、新世界を築こうと目論んでいた。つまり両者とも、“今ある世界の秩序を破壊し、根本から再構築する”という志を抱いていたのである。
だが、そのアプローチはまったく異なる。藍染は神を否定することで自らが「天に立つ」ことを選んだ。対してユーハバッハは、現世・尸魂界・虚圏に分かれた3つの世界を原初のように1つに統合し、「死」という概念を消そうとしていた。
また、藍染は「勇気」を重要視し、人間という存在は「恐怖をはねのけて歩むものだ」という思想を持つ。しかし、ユーハバッハが望む死のない世界では、そもそも恐怖という概念すら失われているため、2人は相容れない存在というわけだ。「私は常に、私を支配しようとするものを打ち砕く為にのみ動く」という藍染のセリフには、彼の揺るぎない信念と、ユーハバッハの支配に抗う意志が滲んでいた。
この対決のハイライトは、藍染の「完全催眠」が「全知全能」さえ欺いたという点である。未来を視ていたはずのユーハバッハが一護によって不意を突かれたのは、藍染が彼の認識そのものを錯覚させていたから。結果的に、ユーハバッハの消滅には石田雨竜の銀の矢が決定打となるが、その前提を作ったのは間違いなく藍染の知略だった。
藍染とユーハバッハの戦いは、「破壊」と「再生」というテーマにおける哲学的な対立でもある。そんな2人の衝突は、今なおファンの記憶に強く残る“悪vs悪”バトルに数えられるだろう。
■作中屈指の下剋上バトル!『ジョジョの奇妙な冒険』ドッピオVSリゾット
荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風』では、巨大ギャング組織「パッショーネ」のボス、ディアボロの二重人格であるドッピオと、「パッショーネ」暗殺チームのリーダーであったリゾット・ネエロの“下剋上バトル”が胸アツだった。
ドッピオの主人格であるディアボロは、「キング・クリムゾン」という強力なスタンドを持ち、この世の時間を十数秒消し去ることで、他人の動きを予知することができる。どんな攻撃でも回避でき、一見無敵のようにも思えるが、リゾットのスタンド「メタリカ」は、鉄分を操作して実物の刃物を生み出すことができる能力を持つ。
リゾットはドッピオの体内の血液を、カミソリやハサミなどの刃物に変えて重症を負わせる。攻撃されていることは分かるけれど、攻撃の方法やスタンドの能力が分からないドッピオは喉からハサミが飛び出したり、足が吹き飛ばされたり、頭が吹き飛ばされたりする未来を見せられながらも、次々と未来を違う形にして乗り越えていく。
ドッピオは、大量出血によりもう少しで命が尽きるというところまで追い込まれるも、ナランチャ・ギルガのスタンド、エアロスミスが自分たちを狙っていることを利用してリゾットだけを狙い撃ちさせることに成功。死の間際にリゾットが放った「勝っていた……オレは勝っていたのに……」というセリフからは、その無念さが伝わってくる。
この戦いが特別だった理由は、リゾットが圧倒的な力を持つ作中のラスボスに対して、十分に勝機を見出していたという点だろう。また、ボスであるディアボロさえ見抜けなかったリゾットのスタンドを、たった一度の勝機で暴いたという点でも、「ジョジョ」ならではの緊迫感あふれる名勝負だった。
“悪”同士がぶつかるとき、そこには倫理なき知略、感情を削ぎ落とした冷酷なバトルなど、感情を揺さぶる異質なシーンが多く生まれる。今後のジャンプ作品でも、そんな“悪vs悪”の火花が飛び散る瞬間に出会えることを期待したい。