
現在放送中のドラマ『愛の、がっこう。』では、Snow Manのラウールさんがホスト役に挑戦しており、その圧倒的なビジュアルと体当たりの演技で大きな注目を集めている。
近年、ドラマや映画において、一見煌びやかな「ホスト」の世界を通じて、人間の愛、欲望、そして心の闇を描く作品が増えてきた。中でも印象的なのは、色気やチャラさ、そして時に痛々しいほどの哀しみまでをまといながら、ホストという存在を全身で表現する俳優たちの“ハマりすぎた”熱演である。
今回は、そんなホスト役で観る者の心を強く揺さぶった俳優たちの名演を、あらためて振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■日本ドラマではまず見ない…? ダークなホストぶり『TOKYO VICE』山下智久
アメリカ・HBO Max制作のドラマ『TOKYO VICE』で、山下智久さんが演じたのは、ホストクラブ「ミラリナ」のカリスマホスト・アキラ。舞台は1990年代末の東京。警察やヤクザなど裏社会が絡み合う重厚なドラマの中で、彼は異色の光と闇を放つキャラクターを演じた。
山下さんはのちのインタビューで「人間の汚さや醜い部分みたいなものが大きく出ている役」と語り、「今回は真逆の方に振り切った陰のある役でしたから、自分の俳優としてのキャリア面で考えても、すごくいい経験をさせてもらいました。」と、手応えをにじませていた。
その言葉通り、山下さん演じるアキラは、スロバキア出身の新人ホステス・ポリーナを英語混じりの甘い言葉で巧みに誘惑。次々と高額な酒を注文させ、コールで一気飲みを煽る。その姿はまさに“女をダメにするホスト”そのものだ。その結果、ポリーナは多額の借金を抱え、そして物語はさらに破滅的な展開へと進んでいく。
容赦ない展開の中で、山下さんは従来の爽やかなイメージを覆し、ダークな役柄を見事に演じ切った。これは間違いなく、彼の俳優キャリアにおけるひとつのターニングポイントであり、挑戦的かつ記憶に残る新境地の熱演であった。
■セリフは一切なし、不思議な存在感『熱のあとに』水上恒司
2024年に放送されたヒューマンドラマ『熱のあとに』で、水上恒司さんが演じたのは、ホスト・望月隼人である。物語は冒頭、金髪で半裸の隼人が腹を刺され、血だらけで倒れているという衝撃的なシーンから幕を開ける。
本作は、ホストに心を奪われ、執着の果てに“刺してしまった”女性・沙苗(橋本愛さん)が、服役を経て結婚し、静かな日常を手に入れようとするも、常軌を逸した隼人への愛情を密かに抱え続ける姿を描いた物語だ。
隼人は、かつて沙苗に借金を背負わせ、体を売らせてまで1000万円を貢がせたホスト。一方、客として来た余命わずかな高齢者と心を通わせ、最期まで寄り添うような優しさも持ち合わせている。沙苗曰く「まじめで思いやりがあって、分け隔てなく人に愛情を注げる人」という人物だ。
興味深いのは、水上さん演じる隼人が劇中で一言もセリフを発しないことだ。腹を刺されるという本作の重要な出来事であろうシーンまで省略され、その存在はどこか幻想的である。隼人はあくまで“沙苗の心の中にいる特別な人”として、観る者に想像の余白を残す演出がなされているように感じる。
山本英監督が、水上さんにオファーした決め手は、彼の“目”だったそうだ。「瞳の奥に何が映っているのか分からない程に澄んだ目」と評されたそのまなざしは、言葉よりも雄弁に何かを訴えかけてくるのだった。