■量産型の魔道士だった『FF9』のビビ

 最後に紹介するのは、2000年にプレイステーション用ソフトとして発売された『ファイナルファンタジーIX』から、ビビである。

『FF6』(1994年)から、シリーズはスチームパンク風の世界観となり、これまでのシリーズに登場した魔道士のようなキャラは登場しなくなった。

 だが、本作は久しぶりに中世ヨーロッパ風の世界が舞台のファンタジーとなり、このビビはかつての『FF』の黒魔道士のデザインそのままに登場する。懐かしいと思ったプレイヤーも多いはずだ。

 しかし、ビビは旅の中で黒魔道士の仲間から、自分たちは人工的に生み出された存在であり、しかも生まれてから約1年で止まってしまうということを知らされるのである。そして、アレクサンドリア王国により人型兵器として生み出された量産型黒魔道士だったことも判明していくのだ。

 これまでにない展開で驚かされるが、ビビがいわゆるテンプレートな黒魔道士像として描かれていたのはそういうことだったのかとも気づかされる。

 ビビは自分という存在は何なのか、生きる意味は何なのかについて苦悩しながら旅を続けていく。そしてラスボスとの戦いを終え、エンディングでビビは自分自身の最後を受け止め、「ボクの記憶を空へあずけにいくよ」という言葉を残し動きを止めてしまう。

 ビビは量産型魔道生命体というキャラとはいえ、その愛らしい見た目から人気も高く、ゲームの中でも強力な魔法を使える主力キャラとして使っていたプレイヤーも多かっただろう。そんなビビが最後を語る瞬間は涙なしには見られない名シーンであり、『FF』シリーズでも屈指の名エンディングといえる。

 『FF』シリーズでは初期から常にプレイヤーに感動を与え続けてきており、「別れ」をはじめとした心に刺さる演出がなされてきた。

 それは現在の美麗なグラフィックの時代だからではなく、ドット絵の時代からでも、限られた容量による短いセリフの中にも彼らの人生が描かれていると言っても過言ではないだろう。

 エアリスのシーンがトラウマになったプレイヤーも、『FF』シリーズの他の作品での別れの名シーンを体験してみてほしい。涙なしには語れない『FF』シリーズの原点が、きっとそこにはあるのではないだろうか。

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