■顔を奪う妖怪と少女の歪んだ願い『忍者戦隊カクレンジャー』
最後は、シリーズ18作目『忍者戦隊カクレンジャー』(1994年)、第32話「ナメんな顔泥棒」だ。本エピソードは、一見コミカルに見えて、戦慄の恐怖映像で視聴者にトラウマを残したシリーズ屈指のホラー回だ。
登場するのは妖怪・ヌッペフホフ。「いただきまーす!」とともに、なんと人間の顔をペロリと舐め取り、“のっぺらぼう”にしてしまう。しかも奪った顔は隠れ家に持ち帰り、額縁に入れてコレクションしているという恐るべき設定だ。
そんなヌッペフホフが夜の街を徘徊する中、姿を現したのが少女・ハルカである。自分の顔に強いコンプレックスを抱える彼女は、漫画に出てくる“お姫様”のような可愛い顔に憧れ、「私の顔を舐め取ってほしい」と自らヌッペフホフを探している。カクレンジャーの制止も振り切り、ついには自ら顔を差し出してしまうのだった。
ここからが、戦隊シリーズ屈指の恐怖演出だ。のっぺらぼうとなったハルカは、絵具で理想のお姫様の顔を描き、大喜びで街を歩き回る。だがその喜びも束の間、突然の雨で顔は崩れ落ちてしまい、通行人たちに「変な顔」と笑われてしまう。泣きながら街を駆け抜けるハルカの姿は、痛ましくも恐ろしい。
物語は、深く後悔するハルカのためにカクレンジャーがヌッペフホフを退治し、奪われた顔も無事に元通りになり一件落着する。しかし、そこに至るまでの展開はあまりにもインパクトが強く、多くの視聴者の記憶に深く刻まれることとなった。
単なる“顔を奪う妖怪”の恐怖にとどまらず、少女の行動を通して浮かび上がるのは、自己否定や承認欲求という現代的なテーマである。衝撃的な演出と深いテーマ性を併せ持つ本エピソードは、『スーパー戦隊シリーズ』ホラー回の傑作だと言えるだろう。
明るく元気なヒーローたちが活躍する『スーパー戦隊シリーズ』であるが、中には、今回紹介したエピソードのような、思わず目を背けたくなるような恐怖、そして胸にじわりと残る切なさを描いた“異色の一話”が数多く存在する。
暑い夏の夜にこそ、そんな背筋がゾクッとする『スーパー戦隊シリーズ』異色のホラーエピソードをぜひ味わってみてほしい。