
1990年にファミリーコンピュータ用ソフトとして第1作が発売された『ファイアーエムブレム』(任天堂)シリーズは、誕生から35年経った今でも、シミュレーションRPGの金字塔的作品として、根強いファンに支えられ続けている人気作である。
剣と魔法で戦うファンタジック世界観ながら、キャラを強くするだけでは攻略が難しく、どう進むか、どう相手の攻撃を耐えるか、緻密な戦略が要求される「手強いシミュレーション」として知られている。
そのため、多数の敵を相手にする場合でも、敵軍を分断し、各個撃破していくという戦略が基本となる。
だが、中にはあまりに強すぎて、単騎で戦局を左右するぐらいの凶悪な敵キャラも。そうした凶悪キャラが登場するマップでは、そのユニットに可能な限り近づかないようにどこまでが移動範囲かを常に計算しながら攻略する必要があり、多くのプレイヤーを悩ませてきた。
■グルニア黒騎士団を率いる、「暗黒竜と光の剣」のカミュ
たとえば、初代作『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』に登場するカミュがそうだ。彼は物語の終盤に登場するキャラクターで、アカネイア王家に伝わる強力な槍・グラディウスを武器に立ちはだかる強敵である。
これまで登場してきた敵キャラは、強くても集団でかかれば倒せる敵がほとんどであった。だが、このカミュに関しては、どれだけ囲んでもすべて返り討ちにされるぐらいの強敵なのだ。
なんといっても、こちらの守備力を最大まで上げていても大ダメージを与えてくる高い攻撃力。加えて、グラディウスが直接攻撃と間接攻撃の両方ができる槍というのもポイントで、間接攻撃で少しずつダメージを与えてからとどめを刺すといった戦法が使えない。間接攻撃でも返り討ちにあってしまうからだ。
特に恐ろしいのが「必殺の一撃」である。低確率ではあるが、必殺の一撃が発動すると通常の3倍のダメージを受けることがある。これを食らうと主力級のキャラでも一撃でやられてしまうほどの威力。基本的には死んだら生き返らせることができない同シリーズにおいて、近づくだけでキモが冷える相手なのだ。
のちにスーパーファミコンで発売されたリメイク版では「運」のパラメータを上げることで必殺の一撃を回避できるようになり、また、アイテムの「光のオーブ」を持っていれば必殺の一撃を無効化できた。だが、オリジナル作では必殺の一撃を完全回避するすべがなく、常にキャラクターのロストに怯えながらプレイしなければならないのは心臓に悪かった。
■絶対に倒せない「紋章の謎」のハーディン
続いて紹介するのは、『ファイアーエムブレム 紋章の謎』(1994年)に登場するハーディンである。ハーディンはオレルアン王国の王弟で、優れた騎士として主人公・マルスとともに暗黒戦争を戦い抜いた人物で、前作では主力として彼を使っていたプレイヤーも多いだろう。
だが、『紋章の謎』第2部では、悪の魔導士ガーネフによって闇のオーブに支配され、敵として登場するのである。
彼が登場するのは第2部第8章「ソウルフル・ブリッジ」。敵の大軍に追いかけられるため、速攻でのクリアが求められる難関マップである。ここでマルスたちを追ってくるメンツの中にハーディンがいるのだ。
ハーディンのレベルは最大である20。ステータスもほぼすべてが最大値で、さらに最強の槍・グラディウスまで装備している。
この時点ではまだストーリーも前半であり、味方キャラにも強いキャラはほとんどおらず、攻撃されれば生き残ることすら困難なのだ。しかもハーディンは闇のオーブに守られていてダメージを与えることすらできない。つまりは完全な無敵キャラなのである。
『ファイアーエムブレム』シリーズで倒すことができない敵キャラが登場したのはこれが初めてであり、どうすればいいか戸惑ったプレイヤーも多かったことだろう。
相手が無敵のため、これまでほとんどのマップですべての敵を倒してきた筆者も逃げることしかできず、煮え切らない思いを抱いたことを思い出す。