■老人をあざ笑った若者を襲う「衝撃の報い」
最後に紹介するのは、1991年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されていた光原伸氏の『アウターゾーン』。
現実世界と隣り合わせの不思議な世界「アウターゾーン」。そこに巻き込まれる人々の姿を、案内人であるミステリアスな美女「ミザリィ」が狂言回しを務めながら展開する物語だ。
宗教に傾倒する母親による虐待が多くの読者のトラウマとなった「ママと悪魔」の回や、透明人間になった性悪男が悲惨な最期を遂げる「見えない男」の回など、印象に残る強烈なエピソードが多い。
そのなかでも第41話「老化」のエピソードは、いろいろな意味で「ゾッ」とした回として記憶している。
男子高校生の武(たけし)は、ふだんから年寄りをバカにし、いたぶって面白がっていた。武は「あんな見苦しい生き物になるぐらいなら死んだ方がマシ」「俺ならああなる前に自殺する」とまで言い放ち、老人たちを見下していた。
ある夜、占い師の老女をバカにしながら暴行を加えて金を奪った武は、「お前も同じ思いを味わえ!!」の言葉とともに呪いをかけられてしまう。
翌朝、その呪いの力によって急激に老いた武。おじいさんの姿になった姿を見た母親により、家から追い出されてしまう。
老化で真っ白の髪は抜け、煎餅をかじったら歯が抜ける始末。さらに自分がやっていたように別の高校生からカツアゲされるなど、散々な目にあう。
この呪いを解く可能性がある占い師を探すが、彼女は武に受けた暴行によって死んでしまったことが判明する。
それから3年後、さらに老いた武は老人養護施設にいた。自分のことを「20歳」だと懸命に伝えるが、若い看護師たちは「すっかりボケちゃってるわね」と取り合わない。
かつて「年を取るぐらいなら自殺する」とまで言っていた武に触れ、ミザリィは「どうやら彼自身は(そのことを)忘れてしまった様ですね」という痛烈なセリフで締めくくっていた。
高校生がいきなり老人にされるという呪いの存在も怖いが、年を取っているというだけで理不尽に暴力をふるった挙げ句、殺人まで犯していた若者の暴挙のほうに恐ろしさを感じてしまう。
『笑ゥせぇるすまん』や『Y氏の隣人』、『アウターゾーン』は、一般的なホラー作品とは違ったかたちの「恐怖」が描かれた漫画といえる。とくに人間のエゴや理不尽さといった闇の部分に切り込み、その描写にホラー以上の怖さを感じた人も少なくないのではないだろうか。