■息子の行動により迎えた残酷な結末

 次に紹介するのは、吉田ひろゆき氏が『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で1988年から2002年まで連載していた『Y氏の隣人』。

 同作は「幸福の伝道師」を自称する「ザビエール」という謎の人物が、悩める人々に不思議な道具を与える。その道具の力で幸福に導くかと思えば、必ずしもそんなことはなく、時には破滅へと誘うこともある。

 そんな本作で人間の業の深さを思い知らされたのが、「導きのカード」というエピソード。基本1話完結のオムニバス形式で描かれた作品だが、この回は「前・後編」となっている。

 名門中学への進学を目指す小学六年生の川村高(たかし)が主人公。父親は証券会社に勤める心優しい人物だが、息子の高は「うだつのあがらない万年係長」と心の中でバカにしていた。

 ある日、同じ中学を目指す裕福な家庭の友人が高給の家庭教師を雇ったと知り、うらやましさを感じていた。

 そんな高が道端でため息をついていたところ、ザビエールに遭遇する。「もっと裕福な家の子に生まれたかった」と嘆く高に、ザビエールは過去の世界に電話することができるテレホンカード「導きのカード」を授ける。

 高はそのカードを使って8年前の父親に電話をかけ、確実に上昇する株を教えることで証券マンである父親を出世させようと企んだ。

 その策が成功すると父はトントン拍子で出世し、川村家は裕福な家庭に。こうして高は豊かな生活を手にするのだが、逆に出世した父親のほうは浮かない表情を浮かべていた。

 そして念願の名門中学も合格を果たし、父親の帰りを待っていたところに父が倒れたとの連絡が。

 ベッドに横たわる父は「出世か…もううんざりだ……」「私にはもっと別の生き方があったような気がする…」という後悔の言葉を遺して帰らぬ人となる。死因は働きすぎによる過労死だった。

 この父の悲惨な死を目の当たりにして、大人になってからの出世を諦めた高。だが彼の息子が、過去の自分に電話をしている場面を目撃して終わるという、“因果応報”を思わせるラストシーンで締めくくられていた。

 つまらないエゴにより子どもが父親を過労死に至らしめるという展開は、実に恐ろしい。貧しくも穏やかな日々を送っていた本来の父親の表情が明るかっただけに、胸が締めつけられるような怖いストーリーに感じた。

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