■反骨と自由への渇望『さくらん』土屋アンナ
最後に紹介するのは、2007年公開の映画『さくらん』だ。安野モヨコさんの同名漫画を原作に、フォトグラファーとしても知られる蜷川実花監督が初めてメガホンを取った異色の青春時代劇である。
土屋アンナさん演じるきよ葉は、8歳で遊郭・玉菊屋に売られた遊女だ。気が強く口も悪く、幾度も脱走を繰り返す問題児だったが、生まれ持った器量の良さと心根の強さを武器に頭角を現し、やがて「日暮」の名を冠する看板花魁へと成っていく。
恋、裏切り、そして死……。過酷な自身の運命に翻弄されながらも自由を渇望し、自らの意志で道を選び続ける姿は、芯の強そうな土屋アンナさんの印象も相まって、江戸時代の遊女・花魁という枠を超えた現代にも通じる強い女性像を感じてしまう。
圧巻だったのが、売れっ子花魁となったきよ葉が堂々と歩む花魁道中のシーンだ。赤と黒を基調にした豪奢な着物にゼブラ柄の帯という大胆な装い。椎名林檎さんの手がける楽曲『ギャンブル』をバックに、蜷川監督ならではの極彩色の映像が重なり合い、まさに唯一無二の花魁道中シーンであった。
ちなみに本作には、土屋さんのほかにも、花魁役で木村佳乃さんや菅野美穂さんなど、人気女優たちが登場している。当時のインタビューにて、“首のかしげ方一つにもこだわって撮影をおこなった”と蜷川監督は明かしていたが、丁寧で繊細に仕上げられた本作は、これまでとは違った“新しい花魁像”を作り上げたように思う。
「花魁」という存在は、単なる美の象徴ではなく、内面の強さや矛盾、時代に抗う意志をも抱えた非常に奥深いキャラクターだ。
今回紹介した花魁を演じた女優たちは、それぞれが独自の解釈と表現力で、その複雑な魅力を見事に体現し、観る者の心を強く惹きつけていた。
今後も、新たな作品の中で、どのような“現代の花魁”が誕生していくのか。期待せずにはいられない。