
現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。「江戸のメディア王」として成功をおさめた蔦屋重三郎の生涯を描いた本作では、吉原を舞台に「花魁(おいらん)」がたびたび登場し、作品に彩りを与えている。
そもそも花魁とは、江戸時代・吉原遊廓における最上位の遊女として、美貌はもちろん、芸事や教養をも兼ね備えた“江戸のトップスター”とも呼ぶべき存在だ。
先述した『べらぼう』でも小芝風花さん、福原遥さんなど美しい女優たちが花魁役に挑み話題をさらっているが、今までにも多くの実力派女優たちがこの難役に挑んできた。気高さ、艶やかさ、強さ、そして儚さ、多面的な魅力を宿した花魁像は、演じる者の力量を問われる役どころでもあるだろう。
今回は、数ある実写化作品の中から、とくに印象深い花魁役をピックアップ。女優たちの名演技とともに、花魁というキャラクターが持つ奥深さをあらためて振り返っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■気高くも儚い花魁『JIN-仁-』中谷美紀
まずは、2009年放送のドラマ『JIN-仁-』で、花魁・野風を演じた中谷美紀さんだ。
原作は村上もとかさんによる同名漫画で、脳外科医・南方仁(大沢たかおさん)が幕末の江戸にタイムスリップし、現代医療の知識で人々を救っていく時代医療ヒューマンドラマである。
本作で中谷さんは、仁の婚約者・友永未来と、彼がタイムスリップし江戸で出会う未来に瓜二つの花魁・野風という二役を演じた。
野風は吉原の最上級位の花魁であり、気に入らぬ客には金を積まれても毅然と断る気高さを持った女性だ。その一方、恩のある鈴屋の旦那や先輩花魁には深い感謝を抱き、彼らを救った仁にも礼を尽くし、次第に心を寄せていく。美しさ、誇り高さ、そして優しさを併せ持った魅力的な花魁だった。
なかでも忘れがたいのが、第1期最終話で描かれた白無垢姿での花魁道中だ。乳がんの発覚によって身請け話が破談となり、摘出手術を受けるため花魁としての人生に別れを告げる場面である。
「では みなさま おさらばえ」を別れの言葉に、遊郭を去る野風。吉原を出た瞬間、それまで履いていた花魁下駄をゆっくりと脱いで裸足で地上に降り立つ姿は非常に美しく、最後まで気高くあろうとする彼女の矜持を強く感じる。中谷さんの静かにも熱がこもる演技が光る、本作屈指の名シーンであった。
■剣を振るう葛藤の花魁『無限の住人』戸田恵梨香
続いて紹介するのは、2017年公開の映画『無限の住人』に登場する一風変わった花魁だ。
沙村広明さんの人気漫画を原作とした時代アクションで、不老不死の剣士・万次(木村拓哉さん)が、剣客集団「逸刀流」に家族を殺された少女・浅野凛(杉咲花さん)の用心棒となって戦いに身を投じる物語である。
本作において戸田恵梨香さんが演じたのが、花魁であり剣士である乙橘槇絵だ。逸刀流の中でも最強クラスの実力を誇る反面、人を斬るたびに心をすり減らしていくという、矛盾と葛藤を抱えたキャラクターだ。統主・天津影久(福士蒼汰さん)に想いを寄せ、普段は遊郭で遊女として生きることを選んでいる点も、彼女の複雑な内面を際立たせている。
槇絵は天津が訪れた遊郭にて、赤と金を基調にした豪奢な花魁姿で登場。もの悲しそうな表情がなんとも言えない色気を漂わせていた。
だが次のシーンでは一転、太ももをあらわにした奇抜な紫の着物をまとい、剣客として万次の前に立ちはだかり華麗な剣技で圧倒していく。本作の男剣士とは対照的に、葛藤を滲ませ戦う戸田さんの姿も印象的だった。