■恨みによる未知なる力でメスや医療器具がメチャクチャに…「密室の少年」
「密室の少年」は、昭和のオカルトブームを象徴するようなエピソードだ。
自動車事故により車椅子を利用して生活を送る一人の少年。彼を医師が診察すると医療器具はひとりでに捻じ曲がり、部屋中の物が襲いかかってくる。誰も彼を治療できないその状況で白羽の矢が立ったのが、ブラック・ジャックだった。
ブラック・ジャックはその原因を見抜き、すべては少年の抑圧された精神エネルギーが引き起こすPK(サイコキネシス)の能力が怪奇現象を引き起こしていることを突き止める。
このエピソードはいわば「超能力」を持った少年が、ブラック・ジャックと対峙する話だ。本作が連載されていた1970年代の日本は、超能力者を名乗るユリ・ゲラーによるスプーン曲げが流行り、空前のオカルトブームが到来していた時期だ。このエピソードにも「スプーンまげ」というワードが出てきており、その時代背景が感じられる。
体が動かないことへの恨みが超能力となって現れ、周りをメチャクチャに破壊する少年に対し、ブラック・ジャックは自らの過去と身体をさらけだし、1対1の対話をする。
それにより心を開いた少年だったが、超能力という特殊な能力に目を付けた大人たちが2人の間を引き裂いてしまう。ハッピーエンドにはならない展開は、ある意味、当時の超能力ブームへの揶揄かもしれないとも思ってしまう。
このほかにもブラック・ジャックは、数千年前に死んだミイラの遺体を手術したり、人間ではない異星人も手術したりしている。このようなオカルト展開になっても冷静に対処できる医者は、ブラック・ジャック以外は誰もいないだろう。
どれほど医療が進んでも、ブラック・ジャックのような医者は漫画の世界でしか会えないのが残念である。