
「マンガの神様」と謳われる手塚治虫さんの代表作の1つであり、令和になった今でもドラマ化されるほど高い人気を誇る『ブラック・ジャック』。孤高の天才外科医であるブラック・ジャックは不可能と呼ばれる手術を数多くこなし、もはや救えない命はないようにも見える。
いつも飄々としてクールなブラック・ジャックだが、そんな彼にも思わずゾッとしてしまうような依頼があった。それが科学では解明できない謎の奇病や、死んだ人間から依頼を受けるといったエピソードである。
今回は『ブラック・ジャック』に登場する、背筋も凍るオカルト回のエピソードを紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■切っても切っても浮かび上がる気味の悪い顔…「人面瘡」
まずは『ブラック・ジャック』の中でも不気味なエピソードとして知られる「人面瘡」を紹介したい。
物語冒頭では、古来から「人面瘡」という奇病があったことに触れており、腹や膝に人の顔のような不気味な吹き出物ができ、それが人間のようにしゃべるという説明から始まっている。
場面は変わり、自分の顔を人面瘡に乗っ取られたという男性がブラック・ジャックの元を訪れる。整形手術をして顔を元に戻すブラック・ジャックだが、包帯を取ると再び人面瘡が再発していた。ブラック・ジャックは人面瘡の原因がその男性の心にあると見抜き、彼を銃で撃ち、意識を断ち切った上で再度手術する荒療治で救う。
人体に人の顔が出現するという気味の悪い人面瘡……人面瘡が男性の身体を乗っ取りしゃべる様子を見たときは、さすがのブラック・ジャックも狼狽の色を隠せなかった。
こうしてブラック・ジャックの手術により人面瘡は完治したかに見えたが、この後、意外な展開で再び出現し、思わぬ結末を迎えることとなる。その驚愕のラストは、ぜひ本編でお楽しみいただきたい。
■目には見えない幽霊の手術「雪の夜ばなし」
「雪の夜ばなし」は、ブラック・ジャックが姿の見えない「幽霊」を手術する話だ。
ある猛吹雪の夜、ブラック・ジャックの診療所に奇妙な兄妹が訪れた。彼らが“治療してほしい”と指し示した先には誰の姿もない。しかし兄妹は首を折った母親がいると必死に訴え、報酬として3000万円を差し出した。
仕方なくブラック・ジャックは形だけの手術を始める。兄妹は“母は飛行機事故に遭い体が焼かれたため母の魂だけ連れてきた”、“その飛行機には自分たちも乗っていた”と説明しており、彼らもまたこの世のものではないことが分かる。
今回は幽霊が幽霊の遺体を連れてブラック・ジャックに手術をお願いするというエピソードだ。普通に考えたら恐ろしいが、ブラック・ジャックが冷静に姿の見えない母親に手術をしているのが何ともシュールだ。一度引き受けたからには、たとえ患者の姿が見えなかろうと最後まで完璧な治療を施す。それが、ブラック・ジャックという男なのである。
最終的に兄妹は“もっと遠いところで母を療養させる”と言い、ブラック・ジャックまでも連れて行こうとする。彼らが言う“遠いところ”とは、すなわち死の世界にほかならない。
ブラック・ジャックは「私はそんな遠くへは行けない」と叫び、受け取った3000万円を吹雪の中に投げ返し、あの世からの誘いを断ち切るのだ。もしこの時彼がついて行っていれば、その神業が再びこの世で見られることはなかっただろう。