■美しくも恐ろしい…文豪によるミステリーを漫画化
1971年の『なかよし』にて全5話で描かれた『黒とかげ』は、文豪・江戸川乱歩の『黒蜥蜴』を原作にした作品だ。
宝石収集家である緑川夫人の裏の顔、それは暗黒街の女王こと女盗賊「黒とかげ」だった。彼女は自身の“美しいもの”コレクションに加えるため、美しい令嬢・岩瀬早苗を人間剥製にしようとつけ狙う。
「美しいものをコレクションしたい」。ただそれだけの理由で多くの人を殺し、剥製にする黒とかげに、当時まだ幼かった筆者は心底怯えた。
本作はグロテスクで猟奇的な作風で知られる江戸川乱歩の小説を、高階氏による華やかな絵柄で少女漫画化し、作品をより分かりやすく表現していた。
ほかにも高階氏は、江戸川乱歩作品の『孤島の鬼』を原作とする『ドクターGの島』も描いている。そのなかには別々の男女を背中合わせでつなぎ合わせた「人造結合双生児」が登場。高階氏ならではの緻密な絵で描かれた彼らの悲しくも痛々しい姿は、あまりにも衝撃的だった。
また、横溝正史の『夜光虫』を原作とした『血まみれ観音』では、体にできた不気味な“人面瘡”を視覚的に表現。今では人面瘡はホラー作品の定番ネタのひとつではあるが、当時はこの得体のしれない異物感がとても恐ろしかった。
70年代の少女漫画といえば、多くの読者がドキドキする恋愛やすてきなボーイフレンドが登場する作品を求めていた時代。そんななか高階氏は血みどろで残酷な作品や陰鬱な作品、そして悪人をメインに据えたピカレスク作品などを描いてきた異色の存在に思えた。
そして50年以上にわたって、少女漫画界の「ミステリー&サスペンス」の女王として君臨。2022年に完結した自伝『70年目の告白~毒とペン~』(秋田書店)をもって引退された。
少女漫画の新たな可能性を開拓してきた高階氏の作品を読んで受けた衝撃は、これからも胸のうちに残り続けることだろう。