■70年代に地球滅亡を描いた斬新な少女漫画

 1970年代の日本は「超常現象」「UMA」「UFO」「終末論」といったオカルトブームで盛り上がった。そんな1975年の少女漫画誌『なかよし』で描かれたのが『はるかなるレムリアより』である。

 8年前、ヒロインの長脇涙(ルイ)の幼なじみである紀彦(ノン)が失踪。「ノンは竜宮城へ行った」という突飛な証言をしたことで、ルイは周囲から疎外されていた。

 しかしある日、高校生のルイは不良に絡まれた際に二人のイケメンに助けられ、彼らが経営するスナックでノンと再会を果たす。

 実はノンたち3人は「レムリア帝国(ムー大陸)」の守護神であり、彼らは女王である「アムリタデヴィ」を探していたのである。

 そしてノンたちは、ルイこそが女王の転生体だと確信。ルイを洞窟の深い穴に落とし、死の淵で苦しませることでアムリタデヴィとして覚醒させた。

 だが、地底に住む暗黒神ガアリイは、アムリタデヴィを手に入れ、自分がレムリアの帝王「ラ・ムー」になろうとする。暗黒神ガアリイは現世の少女たちを喰らいながら魔の手を伸ばす。

 かつてはクラスメイトからバカにされていたルイがアムリタデヴィに覚醒したあとは、別人のように変貌。イジメてきた相手にも堂々と気高く振る舞う姿には、スッキリさせられる。

 しかし、ルイの実の母と妹がガアリイの手下に惨殺されたことを知っても、まったく動じない彼女の様子は、子ども心に異質さを感じて恐ろしかった。

 同作には、ムー大陸と同一視される幻の帝国が登場し、地球空洞説や輪廻転生といった設定が描かれていた。なかでもとくに驚いたのが、地上を死に追いやる存在が暗黒神ガアリイではなく、排気ガスが化学変化を起こして猛毒化した「死の霧」という設定である。

 いわば人間の所業が自らの首を絞め、滅亡に至らしめるという展開には、少女漫画とは思えない残酷さを感じた。

 世界が破滅を迎えるという終末思想は1999年に向けてブームになったが、それよりも20年以上も前の少女漫画にそれが描かれたのは斬新で、当時の読者としては怖かった。そして、その事実を知ったルイが、真実を告げても誰にも信じてもらえず、ウソつき呼ばわりされ続ける展開は、「もし自分だったら……」と考えてゾッとしたものである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4