
ホラーコンテンツ制作会社である株式会社闇が2022年に実施したアンケート調査によると、15~19歳の女性の4割がホラーに興味があり、7割以上の人は自分が怖がりだと思っているという。つまり若い女性は「怖いもの見たさ」からくる好奇心旺盛な層といえるだろう。
その傾向は今のZ世代だけでなく、おそらく昭和の時代から変わっていないはず。1970年代の少女漫画誌を振り返ってみても、あしべゆうほ氏の『悪魔(デイモス)の花嫁』(月刊プリンセス・秋田書店)、曽祢まさこ氏の『幽霊がり』(なかよし・講談社)、美内すずえ氏の『13月の悲劇』(別冊マーガレット・集英社)など、美しくも恐ろしいホラー作品が人気を集めていた。
そのなかでも『マジシャン』『ピアノソナタ殺人事件』などのミステリー作品で知られる高階良子氏が描いた少女向けホラー漫画は、知る人ぞ知る名作ぞろい。筆者は幼い頃、雑誌『なかよし』の付録漫画に収録された高階作品を学校で回し読みするほど夢中になった。
そこで今回は高階氏がさまざまな恐怖を描いた『なかよし』掲載作品のなかから、とくに筆者の印象に残っている傑作を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■美しい心を持つ少女に訪れた悲劇
高階良子氏は1960年代に貸本漫画でデビューし、その後雑誌へと活動の場を移して60年近くも活躍した少女漫画家だ。
初期の頃は青春ラブコメのような明るく元気な作品が多かったが、1972年に発表された『地獄でメスがひかる』は異彩を放つ怪作だった。
本作のヒロインである弥生ひろみは、愛人の子として生まれるも実母が失踪。顔の皮膚病や冴えない顔立ちもあり、引き取られた実父の家族からは虐げられていた。
ひろみはそんな境遇に耐え切れずに自死を図るが、美しい天才医師・巌俊明(いわお としあき)に救われる。
彼女は実父の正妻やその子ども、さらには実の父にまで心ない言葉をぶつけられていた。そんな孤独なひろみに生まれて初めて優しい言葉をかけたのが俊明だった。
俊明は医療技術の向上のためなら命を軽んじる冷酷な面もあったが、ひろみの心の美しさに気づいた数少ない人物。
だが、その俊明は非人道的な医療行為が問題になって大学を追われ、医師免許もはく奪される。そんな医学会や自分を陥れた者たちへの復讐として、ひろみを利用し、自身の才能を知らしめるため禁忌を犯す。
ひろみの顔の病を治す整形手術とだまし、死体をつなぎ合わせて作った美しい体に、彼女の脳を移植したのである。
美しくなったひろみを虐待していた家族まで彼女と気づかず、もてはやす。自分の姿を気味悪がってた周囲の人々の態度は一変したが、容姿が変わるだけで態度が変わったことに精神的に苦しむこととなる。
今なら生まれ変わったヒロインが復讐する「ざまぁ系」の展開に発展しそうだが、この作品の主人公のひろみは不幸が増すばかり。美しい外見と新しい人生を手に入れたものの、内面が変わっていないのに周囲の対応だけが変わったことへの不信感に彼女の心は蝕まれ、病んでいく過程は陰鬱で恐ろしい。
死体をつなぎあわせた体に脳を移植する悪魔のような所業よりも、周囲の人間が容姿だけで差別したり、悪意に満ちた排他的な行動をとったりすることのほうが、はるかに怖いと思い知らされた作品である。