
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治氏)の主人公、両さんこと両津勘吉は「時代を先取りしている」とよく語られる。連載当時は突拍子もなかった両さんの言動が、数年後に振り返ると的を射ていることが多いからだ。
その一例として、両さんが頻繁におこなう「副業」が挙げられる。公務員は副業禁止のルールがあるにもかかわらず、両さんは本編で実にさまざまな副業に手を出し、儲けたり破産したりしていた。
現代の日本は、多くの企業が社員の副業を許可する「大副業時代」だ。これもまた、両さんが時代を先取りしていた事柄といえるだろう。
そこで今回は、両さんが本編で行った副業のなかでも、彼しかできないであろう一風変わった仕事を扱ったエピソードを紹介しよう。
※本記事には作品の内容を含みます
■10億儲けて1兆円の損失!?「両津代表取締役の巻」
「両津代表取締役の巻」では、世界を股に掛ける「中川財閥」の御曹司・中川圭一に代わって両さんが社長を務める。“本業のかたわらで社長”とは意味がわからないが、それを現実にしてしまうのが両津勘吉という男だ。
中川財閥が手掛ける都市開発会社を訪れた両さんは、“東京を世界一のビジネス街に改造する”と中川が思い描く事業計画を耳にする。東京湾に海上都市を浮かべ世界中の企業を招集するという中川の構想に、“昔から東京に住んでる奴らが暮らしにくくなる”と反発する両さん。
中川にお灸をすえてやろうと決めた両さんは、偽の委任状を用意して強引に社長代行になり替わる。こうして「両津代表取締役」の仕事、そして中川の悪夢が幕を開けた……。
委任状で強引に部下を従わせた両さんは会社の計画をすべて白紙に戻させ、売るはずの株を逆に買いまくるなどめちゃくちゃな命令を連発。悪行が中川にバレるや否や、今度は社屋の配電室に逃げ込んで配線を切断してしまう。本人いわく「行きがけの駄賃だ!」とのことだが、この暴挙のせいで会社中のコンピュータがすべてシャットダウンし、その日1日の業務がすべてストップする大事件となった。
結局、1日社長・両さんは概算にして1兆円の損害を出し、自分はどさくさで盗んだ10億円を懐に入れて香港に高飛びした。最初は東京が改造されることに憤っていたのに、最終的には私欲を優先するところが両さんらしい。
なお、このエピソードは、両さんが10億円で香港の不動産を運用し、50億円、500億円と資産を増やすシーンがオチとなる。この人にかかれば、1兆円なんて失うも稼ぐも自由自在なのかもしれない。
■軍隊仕込みのブービートラップで松茸を独占販売!「守れ!松茸山!!の巻」
近年では、本業のかたわら野菜を育てて売る「副業農業」の取り組みが存在し、農林水産省もアピールしている。両さんが松茸でひと儲けしようとする「守れ!松茸山!!の巻」も、野菜を売るという意味では近いだろう。もっとも、この話で両さんは松茸を育てず、こっそり密売するのだが……。
大原部長が借りた山へ松茸狩りに訪れた両さんは、地元の人間すら気づかなかった松茸スポットを発見する。その場で大原部長に権利を買い取らせて大喜びするが、後日、噂を嗅ぎつけた密猟者に松茸を根こそぎ盗まれてしまう。
「もう一本も取らさんぞ!」と両さんは奮起し、密猟者を妨害する罠を仕掛けることに。元軍人のボルボ西郷の協力を仰いで築かれた罠は「地雷原」「引っかかると凶器が襲い掛かるブービートラップ」「赤外線装置で発動する機銃」と、実に恐ろしいラインナップだ。松茸どころか一国の大統領も守れそうではないか。
凶悪なトラップの数々に密猟者は手も足も出ず、松茸の宝庫は守られた……と思いきや、一番の密猟者が残っていた。それはもちろん、両さんである。
ライバルを駆逐した両さんはこっそり松茸を盗み、業者に売りさばいていた。山の権利は大原部長のものなので、もちろん犯罪である。
1キロ8万円で松茸を売りまくった両さんだったが、最後は自身が仕掛けた赤外線カメラに松茸盗みの決定的瞬間を激写され、大原部長に「一年間埋まって来年のための養分になれ!」と、山に埋められてしまう。“副業”ならぬ“悪行”の最後は、いつもあっけないものだ。