■スーファミ以降、ついに公式に「リセット押し電源オフ禁止」へ
時代が進み、1990年にスーパーファミコンが発売されると、セーブ機能もより進化した。バッテリーバックアップの安定性が向上し、システム的にもセーブデータの保護が強化されたことから、ついに「リセットを押しながら電源を切るな」という公式なアナウンスが登場する。
とくに印象深いのが、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(1992年、エニックス)の説明書だ。この中にはっきりと「リセットボタンを押さず、電源を切る」と記載されており、それがプレイヤーの間に衝撃をもって受け止められた。
「え? 今までのあの儀式は、もう必要ないの?」と戸惑ったプレイヤーも多かったことだろう。かつては信仰のように守られていた作法が、逆にご法度として完全否定されるようになったのだ。
スーファミは、発売時点でバッテリーバックアップを搭載したソフトがあることを想定した作りになっていることから、それに対応したハード設計により、リセットを押す必要がなくなったようだ。つまり、技術の進化によって儀式は不要になったわけだ。
ひとつの儀式の終わりに一抹の寂しさを覚えたプレイヤーもいたかもしれない。
ちなみに、筆者が初めてプレイしたスーファミソフトは『ドラクエ5』で、しかも中古で説明書なしの状態で手に入れたことから、当初はファミコンのときと同じようにリセットボタンを押しながら電源を切っていたことを思い出す。
幸いデータは消えなかったが、セーブデータを書き込んでいる途中にリセットボタンを押しながら電源を切ると、データの書き込みが中断されるなどの不具合により、セーブデータにエラーが生じる可能性もなくはないらしい。ということは、儀式がむしろ危険な行為になったのかもしれない。
こうして振り返ってみると、「リセットを押しながら電源を切る」というファミコン時代の作法には、当時の開発者たちの苦労があったことがわかる。
今やオートセーブが当たり前となり、「セーブしますか?」と聞かれることも減った。データが消えることもほぼない。
だが、あの頃のプレイヤーたちが、まるで神に祈るかのようにセーブ後のリセットボタンを押していた姿には、ゲームという文化へのひたむきな愛情がにじんでいる。
「リセットしながら電源を切る」
それは、かつてのプレイヤーにとって、戦いの終わりを告げる神聖な儀式だったのだ。