■呪われた家系に生まれた少女の運命は…『黒百合の系図』
1977年に『月刊LaLa』で連載された『黒百合の系図』は、主人公・北条安希子が母の死を機に自身のルーツを探り、そこに隠された呪いと対峙していくオカルト×歴史ホラーだ。
安希子の母は、死の少し前に庭に咲いた黒百合を見て以来様子がおかしかった。死の裏に何かあると感じた安希子は、母の旧姓「飛竜」と、「黒百合」を手掛かりにトラベラーの田代源太郎とともに母の故郷である「鬼姫谷」を捜しだした。
そこで安希子は、戦国時代に飛竜家が松永家の家老であったことと、ある出来事が原因で飛竜家が呪われてしまい、安希子が最後の生き残りだということを知る。呪いの秘密は、鬼姫伝説という書物に記されていた。
当時の松永家当主・勝久は鬼神に生まれる子と引き換えに戦の勝利を願い、実際に鬼の娘「千也姫」が誕生する。残忍な性格の千也姫は鬼姫と呼ばれるようになり、父である勝久も死に追いやってしまう。
そんな折、村に災害が起こって飛龍元継は黒百合の咲く丘にいる氏神に少女・フキを生贄として捧げたのだが、このフキが飛竜家に末代までの呪いをかけ、それからというもの黒百合が咲くたびに次々と人が死んだという。
だが、なぜか鬼姫もフキの死を機に命を落としていた。田代らが調べてみると、フキと鬼姫の生年月日が同じうえ、過去に生贄の仮面をつけた別の遺体が発見されていたことが判明。これにより田代は、飛龍元継が生贄をフキから鬼姫に入れ替えて殺し、鬼姫がその怒りで呪いをかけていたと確信する。
一方、安希子の周囲では怪奇現象が起こり、黒百合が咲いてしまう。命を狙われる安希子は、霊能力者と田代の協力のもと霊魂を沈めることを決意。幾度となく大ピンチに陥るも、ついに鬼姫の頭蓋骨に聖水をかけて封じ込めに成功するのだった。
『黒百合の系図』は富山に伝わる『黒百合伝説』を参考にしたのであろうか、世代を超えて続く呪いという壮大なスケールが特徴的だ。また、蚊帳の中で寝ていた安希子に忍びよる影のような悪霊や燃え盛る炎の中に浮かぶ鬼姫の顔など、怪現象の描写も強烈な恐ろしさである。
壮大なストーリーと恐ろしい怪奇描写で、読者を震え上がらせた美内すずえさんのホラー作品たち。多くの主人公がやみくもに怖がるだけでなく恐怖の原因に立ち向かっており、そういうポジティブな面も読者を惹き込むポイントだろう。この夏は、美内さんの怪奇ホラー作品で極上の涼を感じてみてはいかがだろうか。