
1967年に16歳という若さでデビューを果たした漫画家・美内すずえさん。その後、1976年に連載をスタートさせた『ガラスの仮面』が大ヒットを記録し、今なお根強い人気を誇る。
一方で、美内さんは短編ホラー作品に定評のある漫画家でもある。繊細なタッチの絵柄で綴られる作品は恐ろしくもドラマ性があり、短編ながらまるで一本の映画を見ているような名作ばかり。今回は、夏にぴったりの「美内すずえ怪奇ホラー」作品を振り返ってみよう。
※本記事は各作品の内容を含みます。
■悪魔崇拝の学校が舞台のオカルトホラー『13月の悲劇』
1971年の『別冊マーガレット』に掲載された『13月の悲劇』は、美内さんの初期作品の中でもひときわオカルト色の強いホラーとして異彩を放つ作品だ。主人公は、マリー・サザランドという明るい性格の少女である。
彼女の父親は世界的大スターだが、子どもの存在を秘密にしていたため、マリーは普段は母親と2人で生活していた。そして母親の死をきっかけに、聖バラ十字学校という寄宿舎に編入することになる。
聖バラ十字学校は、厳重な警備と厳しい規則に縛られたまるで牢獄のような施設だった。しかも生徒はみな無表情で正気が無く、人間らしい生徒といえばマリーと2年前に編入してきたデボラだけである。
ある水曜の深夜、マリーは礼拝で黒猫の生き血を主・ルシフェルに捧げる儀式を目撃してしまう。この学校は、悪魔崇拝の秘密結社・バラ十字団の意思を汲んだ魔女学校だったのだ。
恐ろしくなったマリーはデボラとともに脱出を試みるも、デボラは捕まり殺されてしまう。残されたマリーは悲しみを乗り越え、学校の闇を暴くべく偶然知り合った外部の男性・カルロスの協力を得ながら調査を始めた。
潜入した黒ミサで判明したのは、バラ十字団の魔女たちが世界各国の財政界に潜り込み、世界征服を目論んでいるという驚愕の真実。さらに大女優の顔も持つ魔女が、芸能界を悪魔の支配下におくためにスターである父親との結婚を画策していた。
マリーは学校と洗脳された父親から逃げ、カルロスの元に身を潜めるが、魔女たちに見つかって火あぶりの刑に処されそうになる。だが、間一髪で逃げ出し、警察と世間にバラ十字団と学校の悪事を暴露するのだった。
短編ながら、実写化もできそうなほど濃密な展開で読者を惹き込む『13月の悲劇』。悪魔に魅せられた人々の姿は恐ろしく、マリーを応援しながらページをめくる手がとまらなくなる一本だ。
■恐怖描写のオンパレードに背筋が凍る『白い影法師』
美内さんの作品の中でも最恐と称される『白い影法師』は、1975年に『月刊mimi』に掲載された心霊ホラー。学校に残る少女の怨念に翻弄される主人公の恐怖を描き、次々と起こる怪奇現象で多くの読者にトラウマを植え付けた作品だ。
物語は、主人公の長谷部涼子が私立藤園女子高校2年F組に転入するところから始まる。このクラスにはいわく付きの「窓際の4列目の空席」があるのだが、何も知らない涼子はその席に座り、以来霊障に悩まされてしまう。
霊と交信すべく、こっくりさんを試したところ、5年前の10月6日にここで死んだという生徒・小森小夜子の霊が現れた。調べを進めると、小夜子の悲しい人生が浮き彫りになっていく。
生前の小夜子は病弱で友だちもいなかったが、あるとき、転入生の結城千草と仲良くなる。だが、彼女の入院中に千草が別の友人を作ったことに焦り、無理をして学校に行き、窓際の4列目の席で命を落としてしまう。そして死後、地縛霊となり席に座る者に執着していたのだ。
命の危険を感じた涼子が霊能力者を頼ると、霊能力者は「生への執着で怨念をはねつけろ」と指示を出してくる。小夜子との直接対決を意味するこの行為は非常に危険だが、覚悟を決めた涼子は10月6日に再び例の席に座った。
そして、6時間目が終わろうとしたそのとき、涼子は金縛りで動けなくなってしまう。恐る恐る下を見ると、そこにはニヤリと笑う小夜子の姿が……。
恐怖に慄きながらも涼子は「生きたい」と強く祈り、霊能力者は懸命に祈祷を捧げる。そしてついに、2人の祈りが小夜子の怨念を消滅させるのだった。
生への強い想いが死者の念に勝つという、ポジティブなメッセージもあるホラー短編『白い影法師』。ラストで突如目に飛び込んでくる小夜子の顔は、思わず本を投げ出してしまうほどのインパクトがあった。