ボロボロの自分を救ってくれた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

──オタク趣味との付き合い方が変わっていった、ということでしょうか。 

香川:自身のコントロールは、10代の自分にはまだまだ難しいことでした。将棋をやらないといけないのにゲームをしてしまう時期があったり、逆に将棋に打ち込みすぎて他の娯楽を一切断っていた時期もあったりしましたが、そういったときは負けた時の塞ぎ込みも大きくてしんどかったですね。 

 でも、いろいろな作品に触れてきて、本当にいいものは、自分の心を充実させてくれるということが、徐々にわかってきました。たとえば、負けがこんだりして心が疲れてきたから「いいアニメを観て頑張ろう!」とか、これから頑張らなきゃいけない仕事や対局が控えている時は「終わったらこの積んでいた作品を観るぞ」とか、生きていく明るいモチベーションみたいなものにしていきたいなと、個人的には思っています。 

──大人になってから出会った作品で、とくにこれは良かったという作品について教えてください。 

香川:10代の頃は「将棋以外の時間はなくすぞ」くらいの勢いで打ち込んでいた時期もありました。そういう時って、身も心もボロボロになるんです。間違った勉強法で徹夜してもちっとも成績が伸びない……というような感じの経験だったので、不器用だったり、壁にぶつかったりしている人が苦しみながらそれを乗り越えていく作品に心を打たれることが多いですね。 

 ここ数年の作品だと、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』がとてもとても好きで、映画は何回観たかわからないくらいです。自分でもボロボロになっていることに気づいていないヴァイオレットちゃんが、少しずつ心を獲得していくがゆえに苦しんでしまったり、でも人との心の交流でそれを少しずつ乗り越えていったりする姿は、未熟だった頃の自分と重なって、すごく胸がいっぱいになります。 

 あと、これからアニメ化する作品では、『氷の城壁』も楽しみです。LINE漫画で知って、久しぶりに単行本を買い揃えました。こじれている高校生の主人公たちが、青春や学業や家族のことに向き合っていくお話で、心の揺れ動きがすごく丁寧に描かれているんです。恋愛要素もあるんですが、自分の心のありかたを消化してく中で相手が好きだと気づいて、そこからどうしていこうか……みたいなキラキラな恋愛じゃないところが刺さりました。

 

かがわ・まなお
1993年4月16日生まれ。日本将棋連盟女流棋士。
小学3年生で将棋を始め、6年生で女流アマ名人に。15歳でプロデビューすると、2013、14年には「女流王将」のタイトルを獲得するなどトップ女流棋士として活躍。趣味であるゲーム、アニメ、漫画を生かした将棋普及活動にも精力的に取り組んでいる。2019年に立ち上げたYouTube『女流棋士・香川愛生チャンネル』は、プロ棋士でも最多となる約20万登録を突破。

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