
1992年にゲームボーイ用ソフトとして初代作品が登場した『星のカービィ』(任天堂)。アクションゲームとしての高い完成度、カービィの愛くるしいキャラクターが多くのファンを虜にし、今もなお新しい作品が生み出されている言わずと知れた人気シリーズだ。
2001年にはアニメ版『星のカービィ』が制作され、約2年にわたって放送。新たなカービィたちの活躍が描かれた。
『アニカビ』と称される本作では、ゲーム同様、カービィの可愛らしい姿やファンシーな世界観が見られる。だが、実はこの『アニカビ』、当時のアニメとしては実に攻めた内容の数々で視聴者を驚愕させていたことをご存じだろうか。
そこで、思わず驚かされる『アニカビ』の強烈エピソードの数々を見ていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■第6話「見るぞい!チャンネルDDD」
『星のカービィ』シリーズには、カービィに立ちはだかる数々の宿敵が登場する。なかでもシリーズを通して因縁のライバルとして描かれているのが、ぽっちゃりとしたペンギンのような姿のキャラクター・デデデ大王だろう。
欲深くわがままな絵に描いたようなトラブルメーカーなのだが、彼の巻き起こす騒動の内容こそが、『アニカビ』の強烈な作風を決定づけていると言っても過言ではない。
そんな彼のぶっ飛んだ作戦が披露されたのが、第6話「見るぞい!チャンネルDDD」でのこと。
いつも通りのんびりとした時間が流れるププビレッジだが、ある日、デデデが村中の人々に無償でテレビを配布しはじめる。昼きっかりになると画面に「チャンネルDDD」のロゴが表示され、ついに番組がスタート。村人たちは展開される番組の数々にのめりこんでいくのだが、これこそがデデデの仕掛けた罠だった。
実はこのテレビ番組は、デデデが村人たちの思考を都合よく操作するためのものだったのだ。
カービィに悪い印象を植え付けるコーナー「デデデとカービィ アホどっち」に始まり、デデデが理想とする独裁政治の美化、でっちあげのニュース、そのうえ、適当な天気予報までもが放送。終始、デデデが登場し続ける徹底ぶりにも驚きだ。
テレビ番組を通じて視聴者である村人たちを洗脳する生々しい手法は、子ども向けアニメとしてはかなり特殊だろう。当時、アニメの放送局がTBSだったことから、同局のパロディネタが随所に盛り込まれている点にも驚かされてしまう。
■第28話「恐怖のデデデ・ファクトリー」
朝の子ども向け番組とは思えないほど、リアル且つダーティな悪事が多いデデデ。第28話「恐怖のデデデ・ファクトリー」でも、彼の意表をついた暴走ぶりを見ることができる。
タイトル通り、テーマとなるのはププビレッジに突如現れた工場だ。工場で働くと便利グッズがもらえると多くの村人が惹かれて就業するのだが、カービィたちはこの工場の存在を怪しんでいた。
実はこの工場、デデデがカービィらに対抗するための兵器を生み出す製造工場だった。 村人たちを騙し、労働力として利用する黒い手法もさることながら、何かに憑かれたように必死に働き続ける彼らの姿もどこか恐ろしい。
加えて、この工場がきっかけで発生した煙がプププランドの自然を破壊し、緑を奪っていく様子も、ファンシーな世界観のなかに異質なリアリティを生み出していた。
また、作中で登場するセリフも子ども向けとは思えないものが多く、たとえば、良識人・キュリオの「真実を叫ぶ者は常にわずかじゃ。大多数の人々には理解されない」など、実に核心を突いたインパクトの強いセリフも登場する。
最終的には、作り出されたアイスドラゴンロボをカービィが撃破。工場も崩壊して一件落着……となるのだが、働くことの意味合いや環境破壊問題など、大人になるほどに突き刺さる鋭いメッセージ性には考えさせられてしまう。