■ダイヤを盗んだのはあの子よ!『ガラスの仮面』鷹宮紫織
最後に、昭和から続く未完の傑作、美内すずえ氏による『ガラスの仮面』から鷹宮紫織を紹介したい。紫織は主人公・北島マヤが想いを寄せる大都芸能の社長・速水真澄のフィアンセだ。
登場当初は病弱かつ美しくて優しい紫織だったが、真澄がマヤに想いを寄せているのが分かるとその様子は一変。マヤに対し、これでもかといわんばかりの嫌がらせをする。
たとえば、カフェでマヤと2人で会った際、紫織は倒れるそぶりを見せて鞄を落とし、マヤのバッグにさりげなく婚約指輪を忍ばせて指輪泥棒に仕立て上げる。その後、マヤが指輪を返そうと訪れた際には、またわざとウェディングドレスにジュースをこぼさせて、マヤが真澄から嫌われるよう仕向けるのだ。
しかしそのような子どもじみた作戦はさすがに真澄にバレてしまい、紫織は破談を言い渡される。あまりにショックを受けた詩織は自分を傷つけ、何が何でも真澄と別れまいとするのであった。
最初は美しい令嬢といったイメージの紫織だったが、物語が進むにつれ嫉妬心をあらわにし、もはや滑稽なほどヤバいキャラに成長してしまった。現在、彼女は暗い部屋でひたすら紫のバラの花びらをちぎって暮らしている。しかし、どうしても“かわいそう”とは思えないほど、主人公を苦しめ続ける強烈なキャラクターなのだ。
嫉妬に突き動かされ、ヒロインに嫌がらせをするキャラクターは多くの少女漫画に登場する。そんなキャラは読者からの反感を買い、「さっさと痛い目に遭えばいいのに……」と思われるのだが、その反面、彼女たちがいたからこそ物語が盛り上がるのも事実である。
どれほど悪意のある嫌がらせをしても、彼女たちの存在は作中で輝いているのだ。