
いつの時代も私たちを楽しませてくれる少女漫画。内容は時代によって変化しているが、特に昭和時代の少女漫画は美しいヒロインが運命的にプリンスと出会い、ドラマチックな恋愛に発展することが多かった。
しかしそのような少女漫画には、必ずといっていいほどヒロインを貶めるライバルが登場する。ヒロインたちはライバルの激しい嫉妬のターゲットになってしまうのだが、今、読み返してみると「それはやりすぎでは……」という嫌がらせも多かった。
ここでは、昭和の少女漫画でよく見られた嫉妬によるヒロインへの嫌がらせ行為を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■フランシスはあたしのもの…『砂の城』ミルフィーヌ
少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)で1977年から連載された一条ゆかり氏による『砂の城』は、男女の運命的な出会いと別れを描いた名作だ。
主人公のナタリーはフランシスという幼馴染と愛し合うものの、思わぬ事故に遭い彼は死去してしまう。絶望するナタリーだが、彼が別の女性との間に残した息子を育てることに希望を見出すのだ。
その息子は同じくフランシスという名で育てられ、大人になるとなんと父と同じくナタリーと愛し合うことに。しかしフランシスの学友の妹・ミルフィーヌは、彼を一途に愛するがゆえにナタリーの存在が邪魔でしょうがない。嫉妬の念に駆られたミルフィーヌは、ついにナタリーをナイフで襲い、その拍子に自分の足を傷付けてしまうのだ。
その後もミルフィーヌは入院中に“フランシスが来ないなら食べない”と言って絶食したり、“フランシスに嫌われたら死んだほうがいい”などと言って周囲を困らせる。フランシスを手に入れるためには怒り泣きわめきと、手段を選ばないのだ。
普通に考えればこうした行為は相手をドン引きさせるばかりで嫌われてしまうのだが、昭和の少女漫画では“彼を手に入れるためなら何でもしてやる!”という激情型のライバルが多かったように思う。
これでもか!というほどにナタリーやフランシスを追い詰めたミルフィーユ。しかし最終的にはナタリーが病に倒れた姿を見て自分のおこないを激しく後悔し、2人に謝罪をしている。そんな彼女の姿に「やっとミルフィーヌも大人になれたのか……」と、ホッとしたものである。
■記憶がないから自分の夫にできた『はいからさんが通る』ラリサ・ミハイロフ
大和和紀氏による『はいからさんが通る』は、大正時代を生きるおてんば娘の主人公・花村紅緒と、少尉である伊集院忍とのラブロマンスを描いた名作である。2人は親同士が決めた許婚の関係であり、忍が戦争から戻れば無事に結婚する予定であった。
しかし本作にも2人の関係を邪魔するようなライバル女性が登場する。それがロシア人のラリサ・ミハイロフだ。
忍はシベリア出兵の際に重傷を負い、記憶を失ってしまう。そんな彼を助けたのがラリサであり、彼女は忍の記憶がないのをいいことに自分の夫に仕立て上げ、夫婦として日本に亡命してくるのだ。その後、紅緒は忍と再会するものの、彼は記憶もないうえにすでにラリサの夫であるがゆえ、なかなか距離を縮めることができない。
ラリサの行動はひどいように見えるが、もともと彼女には忍と瓜二つのサーシャという夫がいた。しかしその夫が死去してしまい、その後、忍と運命的に出会っている。それを踏まえると紅緒だけではなくラリサにとっても忍は運命的な男性であり、再び亡き主人に会いたいがゆえに夫として偽装する気持ちも分からなくはないだろう。
またロシア語が堪能ではなかった忍が記憶喪失の状態にあったことは、ラリサにとって都合の良い展開でもあった。ラリサが自身の望むように彼の記憶を再構築し、亡き夫の面影を重ねられたのだ。紅緒の立場からするととんでもない話だが、ラリサの行為は忍の記憶喪失をうまく利用したうまい作戦ともいえそうだ。