『うしおととら』『僕のヒーローアカデミア』にも…「まさかおまえが…!?」人気漫画で描かれた“予想できなかった裏切り”の画像
少年サンデーコミックス 藤田和日郎『うしおととら』第30巻(小学館)

 漫画やアニメの展開には、「突然の裏切り」というものが存在する。いつも予想の範囲内でストーリーが進むと面白みに欠けてしまうので、こういった刺激も時には必要だ。そして当然ながら、まったくマークしていなかった者が裏切った時の衝撃は大きい。

 たとえば、諫山創氏による『進撃の巨人』(講談社)のライナー・ブラウンが「鎧の巨人」だったと知ったときには、かなり驚かされた。しかも、その伏線は作中でさり気なく描かれていたから、読み返して二度の衝撃を受けることになる。

 今回は、人気漫画で多くの読者を驚かせた「予想できなかった裏切り」について振り返っていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

■全力を出して散っていった…『うしおととら』秋葉流

 藤田和日郎氏による『うしおととら』(小学館)は、超王道ともいえるバトル漫画のひとだ。白面の者という絶対悪をみんなで協力して倒すのが目的で、まっすぐなストーリーが魅力である。

 そんな中、まさかの裏切りを見せたのが、蒼月潮の仲間で獣の槍の伝承者候補のひとり・秋葉流だ。秋葉は婢妖との戦いで協力をして以来、潮から頼れる兄貴分として慕われていた。

 しかし、秋葉はなんと、物語終盤で裏切るというとんでもない行動に出る。ラスボスである白面の者の側に寝返り、とらとの直接対決を望んだのである。

 潮は秋葉の裏切りに信じられないといった様子だったが、読者としても同じ気持ちだった。これまでそんな素振りを一切見せてこなかったからだ。

 では、秋葉はなぜ裏切ったのか……。そこには、彼が小さい頃から何でもできてしまう「天才」だったことが関係している。

 秋葉はかつて勉強も運動も、特に努力をしなくても、必死に努力している人間を簡単に追い越してしまう天才児だった。しかし、その才能を妬んだ者から嫌がらせを受け、家族にまでそれが及んだせいで、母親が病んでしまった。その経験から秋葉は、“自分は本気を出していけない”と自らに制限をかけてしまう。

 そんな秋葉は、とらと出会った時、彼こそが初めて本気をぶつけられる相手だと思った。何も気にせず全力を出してみたい……そんな気持ちを抑えられなくなり、寝返る結末となってしまったのだ。

 とらはそんな秋葉の気持ちを受け止め、秋葉の相手をする。激闘の末に秋葉は命を落としたが、全てを出し切って満足した様子だった。

 しかも秋葉はとらに対し、自分は「根っからの悪党」だったと潮に伝えるよう頼んでいるので、本心からの裏切りではない。彼の裏切りと死はかなり衝撃的で、いつまでも心に残るものになった。

■思わず同情してしまった『僕のヒーローアカデミア』青山優雅

 続いては、堀越耕平氏による『僕のヒーローアカデミア』(集英社)の青山優雅だ。青山は「ネビルレーザー」という個性を持つ、雄英高校ヒーロー科1年A組の仲間のひとりである。ナルシストかつマイペースな自由人で、個性も「へそからビームを出す」というシュールなものであるために、ギャグ担当のようにしか思えなかった。

 しかし、実は彼は敵(ヴィラン)連合の内通者として、ずっと隠れて雄英の情報をリークしていた。完全にノーマークだったので、この事実が発覚したときには思わず「やられた!」と唸ってしまった。

 青山が裏切り行為をしていた理由は、敵の親玉であるオール・フォー・ワンに弱みを握られていたからだ。実は彼はもともと無個性で、両親の依頼を受けたオール・フォー・ワンに個性を与えてもらったという過去を持つ。息子の将来を心配する親心からの行為だったが、それがすべての間違いだった……。

 オール・フォー・ワンが裏切り者に容赦しないと知っている青山一家は、命令に大人しく従うしかない。結果、家族ぐるみで内通者として暗躍することになったのだ。

 この裏切りには驚かされたが、同情もしてしまった。敵があまりにも巨大で強すぎる。逆らったところで殺されてしまうのは目に見えているからだ。

 本当は裏切りたくないのに従うしかなく、おまけに誰にも打ち明けられない……。罪悪感に押しつぶされ、精神的にかなり追い詰められていたことだろう。だからこそ、彼が全てを打ち明けた時は、正直「解放されて良かった」としか思えなかった。

 過去に林間合宿を敵が襲撃した際、青山はガスの影響を受けていなかったり、荼毘と目があったのに見逃されたりと不自然な場面があったので、それも今思えば伏線だったのだろう。 

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