■アニメは、実写ではありえないことを撮れる

矢口史靖 撮影/有坂政晴

――たしかにアニメなら、描いていないものは映し出されません。 

矢口 実写だったらそこに木が立っていて、こっちに電柱があったら、カメラはここにしか置けない。でもアニメにはそうした制約はまったくないから、すべてを自分で選ばないといけない。逆に言うと、何でも自由に撮れるという面白さもある。……『ハッピーフィート2 踊るペンギンレスキュー隊』という作品がありますよね(※南極に暮らすペンギンたちの世界を歌と踊りでつづった前作の続編で、2011年公開の3DCGアニメーション) 

――はい。 

矢口 あの作品で途中、レンズの径数が変わるシーンがあるんです。それまではちっちゃいレンズだったのが、急にでっかいレンズに変わるのをワンカットでやっている。実写じゃこれは無理なんです。だから実写ではありえないことをやっていたのが面白かった。アニメってこんな自由なことができちゃうんだと。それを自覚してやっているアニメはいいんですけど、無自覚に作っているものを観ると、「画面がだらしないなぁ」と思っちゃいますね(笑)。 

――(笑)。 

矢口 たとえば、そのへんは宮崎監督も、レンズでとらえられる画角をきちんと想定して、実写のカメラをイメージして絵作りしているように見えます。このカットではカメラはこの位置で、このレンズだからと構図を決めているからかっこいいんです。 

――ちなみにアニメーションというと、以前から、監督は押井守監督の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』のタイトルをたびたび出されていたと思います。 

矢口 そうでしたっけ。 

――『ドールハウス』でもあるシーンで監督が、『攻殻機動隊』のようだと感想を漏らされていたとか。 

矢口 言ってたかもしれない(笑)。 

――やはりお好きだったり、影響があるのかなと。学生時代は大友克洋さんの漫画や映画の『AKIRA』も人気だった年代だと思います。 

矢口 『AKIRA』は読みましたよ。鈴木卓爾さんが『AKIRA』の金田のポーズを取るのが上手で。大友さんが描きそうなポーズをして、大学の友達のなかでもやったりしてて。 

――ほかに何か貸し借りされたりした作品はありましたか? 

矢口 『気分はもう戦争』とか『ハイウェイスター』とか『童夢』とか、けっこう読みましたね。この間、ヨーロッパのある映画を観たら、完全に大友さんの『童夢』でしたよ(笑)。 

矢口史靖 撮影/有坂政晴

【プロフィール】
矢口史靖(やぐち・しのぶ) 

1967年5月30日生まれ、神奈川県出身。東京造形大学時代に映画制作を開始。90年に8ミリ作品の『雨女』でぴあフィルムフェスティバルPFFアワードのグランプリを受賞した。93年に『裸足のピクニック』で劇場映画監督デビュー。『ウォーターボーイズ』で日本アカデミー賞優秀監督賞と脚本賞を受賞。『スウィングガールズ』では同賞の最優秀脚本賞を受賞した。ほか監督作に『ハッピーフライト』『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』『サバイバルファミリー』などがある。劇場長編11作目となる『ドールハウス』で初めてオリジナル・ミステリーを手掛けた。 

■作品情報
『ドールハウス』
原案・脚本・監督:矢口史靖
監督:渡辺一貴
出演:長澤まさみ、瀬戸康史田中哲司安田顕、風吹ジュン
音楽:小島裕規“Yaffle”
主題歌:ずっと真夜中でいいのに。
音楽:菊地成孔
配給:東宝

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