■最終回が2つある?『サイボーグ009』
そして、石ノ森作品の真骨頂とも言えるのが『サイボーグ009』だ。悪の組織「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」によって改造された9人のサイボーグたちは、やがてその力で組織に反旗を翻す。しかし物語が進むにつれ、敵の正体はより抽象的かつ哲学的なものへと変貌。「神とは何か」、「人類の進化とは何か」というテーマへと昇華していく。
『サイボーグ009』には2つの最終回が存在する。1つは石ノ森さん自身が執筆した「地下帝国“ヨミ”編」。宇宙空間に取り残された009を救うべく、飛行能力を持つ002が向かうも、彼の燃料も尽きてしまう。絶望の中002が叫ぶ「ジョー! きみはどこにおちたい?」というセリフは、BL的な演出としても話題を呼び、当時の読者の心を激しく揺さぶった。
地球の大気圏に突入し、燃え尽きていく2人の姿を、地上の姉弟が流れ星と勘違いして願いを込める。「世界に戦争がなくなりますように」、「世界じゅうの人が なかよく平和に暮らせますように」――その願いは、石ノ森さんの真のメッセージにほかならない。
この009と002が殉死するという衝撃の結末は大反響を呼び、ファンからは抗議や助命嘆願が殺到したという。わずか2ヶ月後に「完結編」として物語は連載再開されることとなったが、途中で石ノ森さんが死去。残されていたプロットをもとに、親族や元アシスタントによって物語が引き継がれることになった。
「完結編」では、ラスボスは人類の「創造主」というスケールに発展。ヒロインの003が両目と腕をもがれたのをはじめ、他の戦士たちも次々に倒れていくなかで、「何のために戦うのか」「誰のために戦うのか」という哲学的な要素が強まり、その決着が不明瞭なまま未完となる。
石ノ森作品の“重すぎる最終回”は、時に読者の心を凍らせるほど冷徹で残酷だった。しかし、それは現実から目を背けず、真正面から「人間とは何か」に挑んだからこそ。正義とは誰のためにあるのか。進歩の先にあるのは希望なのか、それとも絶望なのか――。石ノ森さんの残した問いかけは、未来に向けて今もなお響き続けている。