■お地蔵様を粗末に扱った罪は大きかった『首は笑う』

 1995年9月発行の『なかよし』ホラー特集号『恐怖の館』に掲載され、『闇は集う』4巻にも収録されている『首は笑う』は、少女たちのハイキングを舞台にした、石仏の怨念を描いたオーソドックスなホラーだ。

 誘われてもいないのに勝手にハイキングに参加し、楽しそうな3人に馴染めず悪態をついていた主人公の優子は、墓場のような場所にあった地蔵の頭を蹴って他参加者を怯えさせる。そして、皆に不謹慎だとたしなめられてもなお、頭を踏みつける罰当たりな行動を取った。

 その瞬間、カラスが鳴いて空気が急変し嵐が訪れる。怯えた3人は優子を置き去りにして逃げ出してしまう。優子は山小屋で3人を見つけ文句を言うが、誰も返事をせずどこか様子がおかしい。怒った優子は、“石仏は悪霊を閉じこめる封印だった”と嘘の話をし、さらに“皆悪霊に入り込まれていて顔が変わる”と煽った。

 これは優子が咄嗟に思いついた怪談話だったが、実際に3人は、顔を隠しながら「優子の言う通りかも」と言い出すではないか。予想外の返しに優子は動揺するも、自分を見て笑う3人に激怒。これまでの自分の悪態を棚に上げ、「人を怖がらせて何が楽しいのよ」と山小屋を飛び出す。

 だが、そのとき、3人が額に白毫のついた恐ろしい顔になっていることに気づく。先ほど自分が語った怪談話が現実になったのだ。恐ろしくなった優子は逃げ出し、例の墓場で頭のない自分の体が地蔵の頭に手を伸ばすところを目撃する。 

 場面は変わり、友人たちの前に優子が現れた。だが彼女は善人に変わっていて、良く見ると額には白毫、首には切り取ったような線が……。帰路につく皆の後ろでは、血を流した優子の生首が地蔵の体に乗せられているのだった。

 わがまま三昧の優子が、地蔵の怒りを買って破滅するという因果応報を絵に描いたような同作。血を垂れ流す生首という少女漫画ではなかなか見られない絵の怖さも相まって、多くの読者のトラウマになったことだろう。

 人の怖さと怪異の怖さが絶妙に交じり合う松本さんの作品たち。どれも短編ながら起承転結がしっかりしており、読み応え抜群のホラーばかりだ。

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