■両さん少年時代のエピソードでも指折りの泣ける話!「親愛ある兄貴への巻」
両さんの少年時代を取り上げたエピソードは多々あるが、ノスタルジーな感動ストーリーが多く、読者からも人気が高い。「勝鬨橋ひらけ!の巻」に「おばけ煙突が消えた日の巻」と、名作を挙げればキリはないが、ここでは弟・両津金次郎との兄弟愛が眩しい「親愛ある兄貴への巻」を紹介しよう。
昭和30年代、小学生だった金次郎はとある弁護士との出会いをきっかけに、自分も弁護士になろうと国立中学への受験を決意する。しかし、彼の兄はあの両さんだ。家で勉強していると両さんが遊びで騒いだりいじめてきたり、とにかく集中できない日々が続く。
入学試験前夜にもちょっかいをかけてくる兄に、大人しい金次郎もイライラ。「兄ちゃんがいると邪魔!」とまで言い、2人は軽い喧嘩をしてしまう。
そして、運命の入学試験当日。試験会場に向かう金次郎だったが、路線内の事故で都電が止まってしまったり、風に受験票がさらわれて川に落ちたりと、立て続けに不幸に見舞われる。
「やっぱり最後までドジだ…」と、うなだれる金次郎。受験を諦めかけた弟を救ったのは、邪魔ばかりしてきた兄だった。両さんは都電が止まったタイミングに自転車で駆け付け、受験票が川へ落ちた時には迷わず飛び込んで回収。まるでヒーローだ。
極めつけは、両さんが合格祈願のお守りを金次郎に渡すシーン。「お前なら絶対受かる! 俺は信じてるぞ!」というまっすぐな応援が、金次郎の不安を拭う。誰よりも弟を心配し、信じていたのは、他ならぬ兄だったのだ。金次郎は無事、国立中学に合格し、現代では弁護士となった。
普段はトラブルメーカーの両さんの家族思いな一面が垣間見える、心温まるエピソードだ。オチで万馬券を当てた両さんが200万円分の洋酒を手に金次郎の家を訪れるのも、家族思いだからこそ……なのだろう、たぶん。
『こち亀』は1976年から2016年の40年間、一度の休載もなく連載された。
途方もない超長期連載が叶ったのは、今回紹介したような感動エピソードもあったからではないだろうか。破天荒なギャグだけでなく、泣ける話も面白かったからこそ作品に深みが生まれ、多くの読者に愛される作品になったのだと思う。
あなたが覚えている『こち亀』の泣ける話はなんだろうか?