親子愛に兄弟愛…『こちら葛飾区亀有公園前派出所』両さんの「思いっきり泣けるエピソード」の画像
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』セレクション1 “人情編” [DVD](バンダイビジュアル)

 1976年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された、秋本治氏の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)。本作は、主人公・両さんこと両津勘吉が巻き起こす破天荒なトラブルコメディがメインの漫画である。

 だが『こち亀』は、読者の心を揺さぶる感動エピソードも有名だ。いつもはハチャメチャな両さんがふと見せる人情味あふれる一面には、胸が温かくなるような、締め付けられるような、そんな不思議な気持ちがこみ上げてくるのだ。

 今回は、『こち亀』の数ある感動エピソードのなかから、筆者が選んだ「泣ける回」を紹介していく。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■父親に電話する両さんにほろり…「冬の旅…の巻」

 連載初期の両さんは一般市民に拳銃を撃ちまくるなど、かなり過激な行動が目立つ。絵柄も相まって愛嬌よりも怖さが強かった時代だが、そんな初期『こち亀』を代表する泣けるエピソードが、第8巻収録「冬の旅…の巻」だ。

 前々話「まごころ説教!?の巻」からの続編で、両さんが面倒を見ていた不良少年の松吉が事故死したことを、故郷の両親に伝えに行くストーリーになっている。

 松吉の実家を尋ねるまでの道中は、両さんが列車で大暴れしたりパチンコ屋に寄ったりといつもの『こち亀』らしい。だが、松吉の両親と面会するシーンから雰囲気が一変する。

 松吉は地元でも悪さをしていたようで、父親は息子の訃報を聞いても「バカな男ですだ!」と言い捨てる。さすがに両さんも気まずそうに立ち去るのだが、帰り道で松吉の父親が独りで泣いている姿を見かけるのだ。

 何か思うところがあったのか、そのあと両さんは公衆電話に立ち寄って実家の父親に電話をする。「べつに………ん 元気だ! 景気はどうだ…?」と、なんでもない会話をしながらも電話を続けようと、チャリンチャリンと10円玉を何枚も入れる姿が印象深い。

 ほんの数コマだけの短いシーンなのだが、だからこそいろいろなことを考えさせられる名シーンだ。

 涙を流す松吉の父親を見た両さんは、父親の声を聞きたくなったのだろうか。あるいは、「口ではなんと言おうと、親父は息子を心配している」と思い、ちょっとした親孝行をしたかったのかもしれない。

■「人生を投げた時点でおまえの負けだ」は名言!「浅草物語の巻」

 次は、テレビアニメでも採用された名エピソード「浅草物語の巻」だ。

 葛飾警察署を訪れた両さんは、刑事に連行される裏社会の男を見かけ「同級生の村瀬じゃねえか!?」と驚く。

 村瀬賢治は小学3年生まで両さんと同じ学校に通い、「一番の天才少年」とまでいわれる秀才だった。ガキ大将の両さんとは正反対な子どもだったが、40年後の2001年に向けたタイムカプセルを一緒に埋めるほど仲が良かったという。

 幼馴染の豹変に戸惑う両さんだったが、そこに村瀬が浅草で逃亡した報せが届く。捜査に参加した両さんは土地勘を活かして村瀬を見つけ出し、そのまま乱闘へ。警察官と裏社会の男、いや、数十年ぶりの友達との初めてのケンカだ。

 激闘の末、かつての親友に殴られて目が覚めた村瀬は「世の中思い通りにならないものだな 両ちゃんよ!」と笑い、両さんも「思い通りいってりゃ わしは総理大臣だぜ」と冗談を返す。

 数日後、村瀬は自首をする。日が空いたことを妙に思った両さんは、あの日2人で埋めたタイムカプセルを掘り起こすことに。そこには、自首直前の村瀬がしたためた「2001年に会うのをたのしみにしてるよ」という手紙があった……という話だ。

 本気の殴り合いを経て友情を取り戻した2人に、涙腺が緩んだ読者は多いだろう。

 筆者が好きなのは、殴り合い中に両さんが叫んだ「何が おまえを変えたのかしらんが…人生を投げた時点でおまえの負けだ!」というセリフだ。逆にいえば、人生を投げなければ人間はいくらでもやり直せる。

 村瀬が両さんの気持ちをどう受け取ったかは、第125巻収録の「浅草物語 望郷編」で描かれている。ぜひ読んでみてほしい。

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