■『紅天女』は2人の魂と執念が宿った究極の舞台

 『紅天女』は一蓮の死後、二度と上演されない幻の舞台になるかと思われた。

 実際、一蓮が亡くなった直後の千草は絶望し、彼のあとを追うことしか考えられなかった。しかし彼女の付き人である源三に“あなたがいなくなったら誰が紅天女をやるのか!”と諭され、目が覚める。

 その後の千草は、亡き一蓮の魂を演じることを使命として舞台に立つ。“舞台の上でふたりはいつも一緒だ”という信念のもと、見事に復活を果たした千草。その演技は見る者を圧倒し、千草は大女優としてのし上がっていく。

 やがて英介と同等の地位を手にした千草であったが、舞台上演中にスポットライトが落下する事故に遭遇。顔半分を負傷した千草は、女優業の引退を余儀なくされるのであった。

 しかし、千草はその後「劇団つきかげ」を創設。自分の後継者となる次の紅天女を探すべく指導者として活躍し、マヤや亜弓に厳しい修行を課していく。

 こうした流れを見ると『紅天女』は単なる演目ではなく、一蓮という劇作家の魂と、その魂を受け継いだ千草による執念が宿った究極の舞台ということが分かる。

 はたして紅天女の主演を務めるのはマヤか亜弓か。千草の後継者となるのはいったいどっちなのか。いずれにせよ、彼女たちが演じる『新・紅天女』を早く見たいものである。

 

 『紅天女』は仏師・一真と、梅の木の精・阿古夜の悲恋の物語だ。『ガラスの仮面』ではこの舞台に沿って千草と一蓮の悲恋、そしてマヤと真澄との関係もなぞられているように思う。

 はたしてマヤと真澄の関係も、阿古夜と一真、そして千草と一蓮のように悲劇的な結末を迎えてしまうのだろうか。その行方こそが『紅天女』の、そして『ガラスの仮面』の最大の魅力であり、多くの読者が続きを待ち望む理由なのだろう。

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