■ 漫画界の「大河ドラマ」は幻の1作目が未完に…
『鉄腕アトム』『ブラックジャック』など、さまざまなジャンルで名作を生み出した“マンガの神さま”こと手塚治虫さん。そんな手塚さんが「自身のライフワーク」と語ったのが、漫画界の大河ドラマとも称される『火の鳥』だ。
同作は、時空を超えて存在し続ける超生命体・火の鳥が過去と未来を行き来しながら、「生と死」や「輪廻転生」などを哲学的に描いたシリーズ作品。
『火の鳥』は、「黎明編」「未来編」「ヤマト編」「宇宙編」など、数多くのシリーズ作品が存在し、それぞれがひとつのエピソードとして完結する構成になっている。また、1980年には劇場用オリジナルストーリー『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』が公開され、1986年には『火の鳥 鳳凰編』などのアニメ映画も公開されて話題を呼んだ。
しかし、1989年2月に手塚治虫先生が急逝し、『火の鳥』というシリーズ自体は第12部の「太陽編」が実質的な最終作となっている。
だが、その『火の鳥』シリーズが始まるよりも前の1954年から、『火の鳥』の幻の1作目といわれている「黎明編」が、雑誌『漫画少年』(学童社)で連載開始。実はこの『漫画少年』連載版の「黎明編」は未完に終わっていることをご存知だろうか。
「黎明編(漫画少年版)」では、その血を飲むことで不老不死になるといわれる火の鳥を求める人々の業が描かれている。その物語は、老いることに恐怖を感じる女王ヒミコが、家来の猿田彦に火の鳥の捕獲を命じ、オノコロ島に向かわせるところで終わっている。
この『火の鳥』の幻の1作目が未完に終わってしまったのは、掲載誌『漫画少年』が廃刊になったためである。
■永遠の時間を生きる、緑の髪を持つ少年
最後に紹介するのは、聖悠紀さんが商業誌デビュー前から描き続けた名作『超人ロック』。限りなく不老不死に近い超能力者(エスパー)であるロックが、年齢や性別までも変えながら、宇宙を駆けて活躍するSF漫画だ。
同作は1967年に漫画同人誌『作画グループ』の回覧誌で発表されたのが最初で、その後は商業誌に進出。1977年から『月刊OUT増刊 ランデヴー』での連載がスタート。そして、1979年からは『週刊少年キング』での連載がはじまり、ここで人気が爆発した。
以降、雑誌が休刊となっても作品自体は生き続け、長い年月にわたって複数の雑誌を渡り歩きながら『超人ロック』は継続したが、聖さんが2022年10月に逝去。連載中だった『月刊コミックフラッパー』(KADOKAWA)の『超人ロック 憧憬』、『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)の『超人ロック カオスブリンガー』は未完となった。
あまりにも長い作品のうえ、単行本なども複数の出版社から発売されており、絶版によって今は読めなくなったエピソードも存在する。
だが一方で、聖さんが闘病中に残したネームとプロットをもとに、元アシスタントの佐々倉咲良さんが作画を担当した『超人ロック 憧憬』最終話が、『コミックフラッパー 2023年7月号』に掲載され、一応の完結を迎えている。
多くのファンに惜しまれながらも未完となった名作は、ほかにも多数存在する。きちんとした物語の結末を見届けることができなかったのは残念ではあるが、それでもファンに愛され続ける作品こそ、真の名作なのかもしれない。