■不器用な伊之助の悲しみ

 最後は煉獄さんが亡くなった後。炭治郎の悔しさや悲しさはいうまでもないが、注目したいのは伊之助の姿だ。

「死んだ生き物は土に還るだけなんだよ」と、野生で育った伊之助は事実を告げるが、自分の感情を適切な言葉で表現できない彼が、泣きながら「どんなに惨めでも恥ずかしくても生きてかなきゃならないんだぞ」と自分や仲間たちを鼓舞するというシーンは意外でもあった。

 その後、伊之助は自分の感情のやり場が分からず、刀を振り回しながらその場を走り回ったり炭治郎を殴るといった行動に出る。悲しみに向き合うにはあまりに不器用な姿がより涙を誘った。

 スクリーンいっぱいに映し出される朝日が無情にも戦いの終わりを告げる。美しすぎるが、もっと早くに朝になっていればという複雑な気持ちも抱いてしまう。

 家族でも仲間でも他人同士の関係にだって、涙を流すほどに心打たれるシーンはたくさんある。反射的に泣けるものからじんわりと心に響くものまで、『鬼滅の刃』では様々な種類の感動が波のように押し寄せる。その根底にあるのはどれも、「他人への優しさの心」なのかもしれない。

 隅から隅まで計算されつくされ、一瞬も飽きることがない『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。劇場で見るなら、改めて煉獄さんのシーン以外にも注目してみてはいかがだろう。

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