■まさかのジャンルに驚き…板垣恵介『メイキャッパー』

 『刃牙』シリーズ(秋田書店)で有名な板垣恵介氏。彼の描く漫画は格闘モノというイメージが定着しているが、連載デビュー作はまったく別のジャンルだった。それが『メイキャッパー』(秋田書店)。タイトルの通り、なんと「メイク」を題材とした作品になっている。

 天才的なメイクアーティスト・美朱咬生が、その類まれなるテクニックを駆使し、ありとあらゆる女性の魅力を引き出すという内容だ。とはいえ描写はかなり荒々しく、メイクのためツボを突くシーンなどはまるで格闘漫画である。そのため少年漫画としては珍しいジャンルではあるが、つい目が離せず引き込まれてしまう。

 板垣氏の手にかかれば、どんな職業も格闘技になってしまうのかもしれない。メイクにすべてを懸ける主人公の姿はカッコよく、読みながら思わず胸がアツくなった。

■お色気たっぷりの学園ラブコメ!川原正敏『パラダイス学園』

 板垣氏と同じく格闘漫画の巨匠として外せないのが、『修羅の門』(講談社)で知られる川原正敏氏だ。長年にわたり格闘漫画を描き続け絶大な人気を誇る川原氏だが、連載デビュー作は意外にも学園ラブコメ作品である。

 タイトルは『パラダイス学園』(講談社)で、ラブコメではあるがお色気要素もかなり強い。物語は、ヒロインの宮崎ちひろが、自分のハダカを見た主人公・司馬新作に「わたしをおヨメさんにしてください」とお願いするところから始まる。すると他の男子生徒がそれを阻止するため、自分もちひろのハダカを見ようとする……と、かなり際どい展開が繰り広げられる。

 本作から何本かの短期連載を経て、『修羅の門』が大ヒットした川原氏。それまでは恋愛ものを多く描いていたが格闘へとジャンルを移し、読者から支持を得たようだ。

 

 人気漫画家のデビュー作は、場合によっては本人の望まない作品になっているものもあるかもしれない。新人時代にいきなり方向性を固めるのが難しかったり、自身の作品の魅力が何なのかをまだ掴みきれていなかったりするのもあるだろう。

 しかし、いずれの作品も、デビュー作の時点で天才の片鱗が見られるものばかりだ。それは当時から画力はもちろん、人の心を掴む漫画が描ける力を持っていたからこそに違いない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3