
5月に入ってSNSで突如盛り上がりを見せた「大沢たかお祭り」。映画『キングダム』シリーズで大沢たかおさんが演じた王騎将軍の画像に、日々の“あるあるネタ”をかけあわせた大喜利投稿が続出し、ネット上でちょっとした現象となった。
一見ただのネタのように見えるこのブームだが、その背景には「王騎=大沢たかお」という圧倒的な説得力があったからこそだろう。
原作ファンの間では「実写化不可能」とまで噂されていた王騎というキャラクターを、なぜここまで“本物”として成立させることができたのだろうか。実写『キングダム』で見せた俳優・大沢たかおさんの凄さに迫ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■ビジュアルから王騎になった身体改造
秦の六大将軍の一人であり、「秦の怪鳥」と恐れられた王騎。その異名にふさわしい圧倒的な武力と巨躯は、原作の中でも規格外の存在だ。実写化において最初の難関は、このビジュアルをどう成立させるかだった。
この難役に挑んだのが、大沢たかおさんだ。モデル出身で『ゲレンデがとけるほど恋したい。』(1995年)や『JIN-仁-』(2009年)など、知的でスマートな役柄を多く演じてきた大沢さんがまさか“あの王騎”を演じるとは……公開前には、戸惑いや疑問の声が上がったのも無理はない。
大沢さん自身も本作屈指の人気キャラクター・王騎を演じるにあたって、「難易度が非常に高く、プレッシャーがあった」「ダメならば叩かれなきゃいけないし、役者も辞めなければいけない」と、相当な覚悟を持って取り組んだことをのちに語っている。
しかし、それは杞憂だった。大沢さんは第1作『キングダム』(2019年)で15kg増量して撮影に挑み、さらに『キングダム 大将軍の帰還』(2024年)ではさらなる増量を達成。単なる体重増ではなく筋肉を中心に鍛え上げ、威厳と優雅さが共存する王騎の身体を見事作り上げたのだ。
とりわけ、王宮シーンから始まった『キングダム 運命の炎』(2023年)では、その作り込んだ肉体が共演者たちに衝撃を与えた。「自分もちゃんとやらなきゃいけない」と、現場の士気が一段と高まったという。
そこに立つだけで現場の空気を変えてしまう……それはまさに、原作の王騎将軍さながらの風格ではないだろうか。
■「声」と「間」で表現された異質なカリスマ
王騎のキャラクターを語るうえで欠かせないのが、その独特な口調だ。「ンフフフフ」「〜ばかりでしょぉぉ?」「ココココ」といった口調が特徴的で、原作では強烈な個性として成立している。だが、実写で再現してしまえば、ただのギャグに見えてしまう可能性もあっただろう。
この難題に対しても、大沢さんは見事に応えていた。第1作目『キングダム』での初登場シーン。反乱軍の成蟜の前に現れた王騎は、独特なイントネーション、柔らかな語尾、妙に間を置いた台詞回し、そして象徴的な「ンフ」の笑い声で、観客に“得体の知れなさ”を強烈に印象づけた。
そして王騎が本格的に戦場に復帰した第3作目『キングダム 運命の炎』では、「全軍、前進」と、ただひと言、静かに命じただけで兵士たちは雄叫びを上げ、士気が爆発する。原作でも有名なこの名シーン。大将軍としての王騎の“カリスマ性”が、確かにそこにあった。
「王騎のしゃべり方はこうでなくっちゃ」と、多くの観客が自然に受け入れたその芝居は、もちろん最初から正解があったわけではない。
大沢さん自身が「日々、現場でどういう選択が良いのか考えながら、やってきました」と語っているように、試行錯誤の末にたどり着いた“王騎の声”だった。