■中性的な魅力から一転…グロテスクな本性『鋼の錬金術師』エンヴィー
最後は、荒川弘さんによるダークファンタジーの金字塔『鋼の錬金術師』から、ホムンクルスのエンヴィーを紹介したい。
自在な変身能力を操り、物語を引っ搔き回したトリックスター。基本としていた姿は、中性的な顔立ちに細身の体型、ヘアバンドを巻いた長髪というビジュアル。少年にも少女にも見えるその姿はミステリアスな魅力を放っており、性別も公式には明言されていない。人気投票では、ホムンクルスとしては唯一、常に上位にランクインするなど、シリーズを代表するキャラクターのひとりだ。
そんなエンヴィーの本当の姿を表したのは、エドワード・エルリックとリン・ヤオとともに、グラトニーの腹の中に飲み込まれたとき。窮地に陥ったその場で「どうせここで全員死ぬんだ 冥土の土産にいいもの見せてやるよ」と、真の姿をさらけ出す。
それは、恐竜のような巨体に全身から無数の人間の顔や手足が突き出たグロテスク極まりない怪物だった。かつての中性的な美しさの面影は完全に失われており、その異形を目の当たりにしたリンも“これのどこがホムンクルスだ 作られし人間なんだよ”と、もっともな感想を残していた。
物語の終盤、再びこの怪物の姿をさらけ出すも、ロイ・マスタングの怒りの炎によって全身を焼かれ、半壊状態に。賢者の石の核も残りひとつとなり、ついには胎児のように小さく、醜く退化した姿へと変わってしまう。
そして「おまえ… 人間に嫉妬してるんだ」と、エドに核心を突かれる。その時、エンヴィーの心によぎったのは屈辱か、それともようやく理解されたことへの安堵か……。自ら最後の賢者の石を引き抜き、自害という最期を選ぶのだった。
戦いのなかで“美”をかなぐり捨て、怪物へと変貌する美形キャラたち。その衝撃的な姿は、見る者に強烈なインパクトを残した。整った見た目の裏にあったのは、抑えきれない感情や執念、そして心の奥底に眠るどす黒い感情だ。美と怪物性、その危うい共存こそが、彼ら最大の魅力だったように感じる。