
1996年に『りぼんオリジナル』(集英社)でデビューした漫画家の種村有菜さんは、今も第一線を走り続ける漫画家の一人だ。かくいう筆者も種村さんの大ファンで、1998年の『神風怪盗ジャンヌ』にハマって以降、彼女の作品を買い漁った。
『神風怪盗ジャンヌ』のほか、『満月をさがして』(2001年)、『紳士同盟†』(2004年)など連載作品が有名な種村さんだが、実は、読み切り作品にも多くの名作が存在する。今回は、彼女の隠れた珠玉の名作読み切り作品を振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■言わずと知れたデビュー作!『2番目の恋のかたち』
種村さんのデビュー作である『2番目の恋のかたち』は、1996年『りぼんオリジナル』6月号に掲載された作品だ。
デビューした当時、種村さんは高校を卒業したばかりの18歳だった。圧倒的な画力とストーリーの面白さから、担当編集者が驚くほどファンレターが届いたという逸話も残っている。
主人公はアップルパイ作りが得意な女の子、山口真魚。真魚は実は親友・結女の彼氏である西川に片思いをしている。そんな真魚に猛アプローチしていたのが、年下の男の子・中村成伸(しーちゃん)だ。男女問わず人気者だった彼から言い寄られ、てんてこ舞いだったある日、結女が西川とケンカをしてしまい、真魚の恋が動き始めるのであった……。
本作で印象的だったのが、「MONO」消しゴムをアレンジしてしーちゃんが作った「MANA」消しゴムだ。実はこのエピソード、実際に種村さんの友人である“しーちゃん”の実話が元になっていた。友達カップルのこの可愛いエピソードを気に入った種村さんがお願いして、漫画のネタにさせてもらったそうだ。
年下の男の子で可愛らしいしーちゃんだが、意外にも男らしい一面もある。揺れ動く真魚の気持ちも丁寧に描写されており、読むたびに感情移入してしまう。
女の子の“キュン”がたくさん詰まった名作『2番目の恋のかたち』。読後にアップルパイが食べたくなるのは筆者だけではないだろう。
■雨の日にちなんだロマンチックな恋!『雨の午後はロマンスのヒロイン』
1996年『りぼんオリジナル』10月号に掲載された『雨の午後はロマンスのヒロイン』は、雨の日にちなんだラブストーリーだ。
主人公の女の子・相川みのりは、雨の日が来るのを心待ちにしている。その理由は、雨の日に傘に入れてくれたことをきっかけに出会った高遠慎也と相合傘で帰ることができるからだ。
みのりは高遠の傘に入れてもらうためにわざと傘を忘れ、「てるてる坊主」を逆さまにして雨が降るのを待つほどであった。
ある日、みのりは高遠が恋愛にトラウマを抱えていることを知ってしまう。実はその原因には、みのり自身がが大きくかかわっていた……。
種村さんが雨の日が好きだったことから生まれた本作は、恋愛下手な男の子と天真爛漫な女の子のロマンチックな恋模様が魅力的で、多くのりぼんっ子の心を掴んだ。
デビュー作が掲載された頃、すでに本作のネームに取り組んでいたという種村さんだが、デビュー作の反響の大きさに、「すぐに原稿にして!」とネームの修正もなく、急いで描き上げたというエピソードもある。
種村さんの描く女の子はどの作品でも弾けるような笑顔が魅力的だが、みのりは特に太陽のような笑顔が素敵なキャラクターだったように思う。そして不器用な男の子・高遠もまた印象的で、初期作のなかでも読者人気の高いキャラクターの1人となった。