
法の目をかいくぐった悪人たちに裁きを下す——そのような復讐代行をテーマにした漫画は令和の現在でも人気だが、80年代の「ジャンプ黄金期」に読者を魅了したのが、平松伸二氏の『ブラック・エンジェルズ』である。
本作は1981年から85年まで連載され、単行本は全20巻が発行されている。連載当初は『Dr.スランプ』や『キン肉マン』『キャプテン翼』などの超人気作と並び、終盤には『ドラゴンボール』や『北斗の拳』『シティーハンター』など、少年たちが月曜日を心待ちにしていたまさに黄金期真っ盛りのころに、シリアスな怖さやトラウマ級の描写で人気を博した。
そこで、連載終了から40年を経た今でも語り継がれる『ブラック・エンジェルズ』のショッキングなシーンを振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■報われない被害者…第一話から真面目に働く兄妹を貶める極悪刑事
第1話「黒い天使がまいおりた!!の巻」から、物語はハードな展開で始まる。冷酷な暗殺集団「黒い天使(ブラックエンジェル)」の一員ながら、普段はとぼけた雰囲気の主人公・雪藤洋士。彼は家族経営の中華料理店でアルバイトをしている。
店主の精二はかつて刑務所に入っていたものの更生し、喧嘩っ早いところはあれど、真面目に働いていた。しかし悪徳刑事・蛭川に執拗に狙われ、殺人事件の参考人として連行されてしまう。(実はこれは雪藤が暗殺した事件だった)それとは別にひったくりが起きた時にも蛭川は精二にあらぬ疑いをかけて連れていくほどで、絶えず目の敵にされていた。
その後、蛭川は精二を支える妹・ひとみに目を付け、気絶させて暴行を加える外道ぶりを見せる。精二は復讐をしに行くも、逆に銃撃されて命を落としてしまうのだ。
まじめに生きようとしていた精二の無念、そして「鬼~!!」と絶叫するひとみのやりきれない悲しみと怒りを見た雪藤は、蛭川がスナックのトイレに入っている隙に首にスポークを突き付け「地獄へおちろ!!」と、首を貫き暗殺。和式便所に顔を突っ込むようにして蛭川は倒れるのだが、すかさず雪藤はレバーを踏んで水を流していた。ゴミを見るかのような目つきがとても怖い……。
報われない兄妹の姿は、読者に強烈な印象を残した。同じような被害者が今後出なくなるのが、せめてもの救いかもしれない。いずれにせよ冒頭からこんなハードな展開で、当時の少年少女は驚愕しただろう。
■「死万あずかります!」女殺し屋・麗羅すら憤る! 老婆や子どもに手を下す悪人たち
第5巻からナイフ使いの殺し屋・麗羅が登場する。彼女は子どものころから暗殺組織「竜牙会」に育てられるも、その後は組織を抜け、殺し屋をしている。
「黒き美獣!!の巻」で麗羅は、ダム建設をする悪徳建設業者にひとり息子を殺された老婆の復讐を手伝う。麗羅は老婆が手にしている札束からナイフで四万円だけ抜き取り、「死万! たしかにあずかります!」と、“怨”の字が入った封筒にお金を入れ、殺しを請け負う。
しかしその後、老婆は悪徳建設業者によって車で轢かれ、その衝撃でダムに落とされるという悲惨な最期を迎える。遺族ですら殺されるというとんでもないシーン……。直後、麗羅は「怨みはらします」と悪徳業者たちをナイフで惨殺するのだが、それでも死ぬまで報われなかった老婆がなんとも可哀想だった。
また「黒き孤独の巻」でも、別の悪徳建設業者が登場する。コイツらは繁華街を作ろうとしているのだが、児童養護施設が邪魔となり、借金を理由に追い払おうとしていた。
健気な少女が一生懸命貯めた小銭の貯金箱をチンピラに蹴飛ばされるシーンは衝撃だ。いつか母親に会えたときに渡すためのお金だったのに、蹴飛ばした連中は高笑い。読んでいるこちらがムカムカしてしまうほどだった。
ここでその借金を肩代わりしたのが颯爽と登場した麗羅だ。百万円の札束を投げつけ、チンピラたちを一蹴する。しかしその後、悪徳業者はあろうことか施設に放火。雪藤の仲間になった松田鏡二が燃え盛る孤児院に飛び込んで助けに行くも、時すでに遅し……子どもたちは息を引き取っていた。
少女が大事そうに抱えていた貯金箱が落ちて割れ、麗羅は中の小銭から百円玉を4枚手にし、「死百うけとります!!」と、放火したチンピラにナイフを投げつけ成敗。ナイフが喉を突き抜けるほどの威力で、多くを語らずとも麗羅の怒りが表現されていた。
それにしても子どもが大人の欲望のために命まで奪われるなんて……やりきれないショッキングなシーンだった。