■大人たちを突き動かす理不尽な殺意…『ススムちゃん大ショック』永井豪
『デビルマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』など、数々の名作漫画を世に送り出し、その大胆な作風で読者を圧倒してきた永井豪さん。そんな永井さんの描いた珠玉のホラー短編作品が、『ススムちゃん大ショック』(1971年)である。
主人公は、タイトルにもなっている小学生のススムだ。平凡な日々を送っていたススムだったが、突如、大人たちが顔色一つ変えずに子どもを殺すという異常事態に遭遇してしまう。
命からがら逃げのびるススムたちだったが、仲間の一人がこの奇妙な事態にある仮説を立てる。それは、“親と子の間にあった絆が消失し、生存本能が壊れてしまった大人が子どもを殺しているのではないか”という、実に奇抜なものであった。
その仮説に戦慄する子どもたちだったが、ススムはどうしても信じきれず、極限状態から逃げるように我が家へと向かって走り出す。
そこには、いつも通り変わらぬ笑顔で台所に立つ母の姿があった。安堵したススムは涙を浮かべながら「ただいま」と駆け寄るのだが、振り返った母は笑顔のまま包丁を振り上げ、そのままススムの首へと振り下ろすのだ。
大人が子どもを殺す凄惨な展開もさることながら、主人公・ススムが命を落とす一連の流れはあまりにも衝撃的だ。そして、そんな世界に取り残された子どもたちの行く末を想像すると、胸を締めつけられるような思いを抱かずにはいられない。
さまざまなジャンルの名作を手掛けてきた名漫画家たちだが、ときにはそれまでの作風から一変した強烈な展開、オチを叩きつけてくる異色の作品も登場している。
一見するとホラーテイストに見えない作品も多いのだが、そのぶん、ラストに待ち構える予想外の結末に読者は驚き、戦慄する。あまりにも救いがない結末は読後も心に深々と突き刺さり、記憶に焼き付いてしまうことだろう。