■陰湿な嫌がらせもアドリブで回避『おんな河』

 『おんな河』は、マヤが栄進座を率いる大御所女優・原田菊子との出会いがきっかけで立つことができた舞台だ。

 菊子はマヤの天性の才能を見抜き、急遽、貧しい子守りの少女・たず役をマヤに変える。しかしそれで役を降ろされてしまった結城麻江は逆恨みし、舞台でマヤが背負う赤ちゃんの人形に細工を施す。

 いざ、赤ちゃんをあやしながら舞台に立つマヤ。“子守りなんてつまらねェ”と言いながら後ろを向いた瞬間、背負っていた人形の首がゴトーンという音とともに派手に落下してしまう。

 誰もが息をのんだその瞬間、マヤはさっと人形の首を取って何事もなかったように背中に装着し「ほんに子守りも楽じゃねえ」と言ってのける。その後、会場は爆笑の渦に包まれるのであった。

 子守りが大変という状況を上手く利用し、人形の首が落ちるあり得ないハプニングですら天才的なアドリブでその場を納めたマヤ。彼女は舞台上でどれほどのピンチが起きようとも、瞬時の判断で見事乗り切ることができるのだ。

■最悪のいやがらせといえばこれ…泥まんじゅうを食べた『夜叉姫物語』

 マヤは数々の嫌がらせによって舞台上でピンチを迎えている。なかでも強烈なインパクトを残したのが、女優引退を決めた舞台で泥まんじゅうを食べさせられた『夜叉姫物語』だ。

 最愛の母を失ったあげく、気力も失せて女優を引退する決意をしたマヤ。そんなマヤに速水真澄が最後の舞台として用意したのが『夜叉姫物語』だった。

 そこでマヤは貧しい村の娘・トキを演じることになる。トキには姫川亜弓演じる玉姫(夜叉姫)からまんじゅうをもらい、喜んで食べるシーンがあった。しかしそのまんじゅうはマヤをおとしめようとした出演者たちの策略で、なんと泥まんじゅうにすり替えられていた。

 舞台上でそれに気づいたマヤは一瞬焦る。しかしこれを食べないと次のシーンに続かないと判断し、マヤは泥まんじゅうをジャリジャリと食べるのだ。そのシーンは「おらあ トキだ!」と役に憑依したマヤがおり、ある意味ホラーチックであった。

 しかしこの場面は、“舞台のためならなんでもする”というマヤの女優魂を見せつけた貴重なシーンである。これがきっかけでマヤは女優としての本能に目覚め、再び舞台で生きる道を選ぶこととなる。

 

 このように数々のピンチを乗り越えてきたマヤ。そのピンチの多くはマヤの才能を妬む周りの策略なのだが、そうした意地悪も難なく乗り越えるマヤを見ると、こちらも勇気がもらえる。

 マヤには、きっとこれからも『紅天女』の舞台に向けてさまざまなピンチが訪れるだろう。今後も彼女がどうやって困難を乗り越えていくのか、早く“その後”を見たいものである。

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